文字 

(2)合併症を知ろう 倉敷スイートホスピタル内科医 江尻純子

えじり・すみこ 岡山朝日高、金沢医大医学部卒。川崎医大付属病院、重井医学研究所付属病院を経て2012年から現職。日本内科学会認定医、日本糖尿病学会糖尿病専門医、認定産業医。

 糖尿病の慢性合併症は、毛細血管を中心に生じる細小血管障害と、比較的太い血管に起こる大血管障害に大別することができます。三大合併症として知られる細小血管障害には、神経障害、網膜症、腎症があり(図1)、糖尿病発症後10年前後の経過で出現すると考えられています(図2)。

 一方、心筋梗塞や脳梗塞などの原因となる動脈硬化は大血管障害にあたり、境界型糖尿病と呼ばれる糖尿病予備軍の段階から発症・進展することがわかっています。

【細小血管障害】

糖尿病神経障害


 糖尿病神経障害は、高血糖により手足の神経に異常をきたし、足の先や裏に痛みやしびれなどの感覚異常があらわれる合併症です。進行すると、足潰瘍や足壊疽(えそ)を起こすことがあります。その他、自律神経にも障害が起こり、発汗異常、立ちくらみ、便通異常、膀胱(ぼうこう)障害、勃起障害などの症状があらわれます。神経障害の予防には血糖コントロールに加え、禁煙やアルコールを控え目にすることも必要です。

糖尿病網膜症

 ヒトの眼(め)の構造はよくカメラにたとえられます。レンズの役目を果たすのが水晶体で、フィルムの役目を果たすのが網膜です。慢性的な高血糖によって網膜が障害を受けると、小さな出血や白斑と呼ばれる病変ができ、進行すると比較的大きな出血も出現します。糖尿病網膜症は失明の原因の第2位であり、年間約3000人が失明しています。自覚症状に乏しい場合が多いため、定期的な眼科受診(表1)と糖尿病コントロールを良好に保つことが大切です。

糖尿病腎症

 腎臓は、血液をろ過して体に不要な老廃物を尿として排泄(せつ)します。糖尿病腎症になると、ろ過の役割をしている糸球体の毛細血管が障害されて、老廃物を排泄する機能が失われてしまい、最終的には透析導入を要することになります。2013年にわが国で新規に透析導入された患者のうち、約44%が糖尿病腎症です。この合併症も自覚症状がないまま進行していきます。早期発見には、定期的に蛋白(たんぱく)尿の有無や、腎臓の機能を検査する必要があります。

大血管障害 (脳梗塞・狭心症・心筋梗塞・末梢(まっしょう)動脈性疾患)

 動脈硬化は動脈の内側にさまざまな物質が沈着して厚く、硬くなり、血管の隆起(プラーク)ができる状態で、糖尿病をはじめとして脂質異常症、高血圧、喫煙などによって起こるとされています。動脈硬化が進むと、血流が途絶したり、血管にこびりついているプラークがはがれて血管が詰まり、重要な臓器に障害を起こします。脳梗塞、狭心症・心筋梗塞や末梢動脈性疾患があります。

末梢動脈性疾患 (閉塞性動脈硬化症)

 足の太い血管に動脈硬化が起こり、血液の循環が悪くなって歩行が困難になります。悪化すると、痛みで歩けなくなり、やがて皮膚潰瘍、壊疽を起こして、場合によっては足を切断することもあります。糖尿病患者さんでは、10~15%と高い割合で合併します。



 その他に、血糖コントロールが悪いと歯周病が悪化するといわれています。さらに、歯周病は心筋梗塞や呼吸器疾患、低体重児出産などを引き起こす誘因となる可能性も指摘されています。歯周病は、特に高齢の人や、たばこを吸う人、肥満の人、抵抗力が低下している人に起こりやすくなります。

 また、アルツハイマー型認知症と脳血管性認知症の起きるリスクは、糖尿病でない高齢の人の2~4倍といわれています。認知症になると糖尿病の自己管理が難しくなり、療養の上でも大きな問題となります。

 これらの慢性合併症が進むと日常生活に支障が生じ、寿命も損なわれることになります。予防するためには、血糖値とともに血圧やコレステロールなどを健康な人と同じレベルに管理しておく必要があります。



 倉敷スイートホスピタル((電)086―463―7111)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2015年06月01日 更新)

ページトップへ

ページトップへ