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褥瘡について 岡山西大寺病院理事長 小林直哉

小林理事長

表1

図1・2・3

褥瘡とは?

 一般的に「床ずれ」とも呼ばれています。

 褥瘡(じょくそう)とは、寝たきりなどによって、体重で圧迫されている場所の血流が悪くなったり滞ることで、皮膚の一部が赤い色味をおびたり、ただれたり、傷ができてしまうことです。

 臨床的には、患者さんが長期にわたり同じ体勢で寝たきり状態に陥った場合に、体とベッドなどの支持体との接触部分で血行が不全となって、周辺組織に壊死(えし)を起こすものをいいます。組織の微小循環が不全となって壊死が生じ、その部の組織欠損・皮膚潰瘍が起こります。

 「褥創」と書かれることもありますが、日本褥瘡学会は、「創」の字が局所的な創傷を表すのに対し、「瘡」の字が全身的な病態を表すとして、後者の使用を推奨しています。

 褥瘡はなぜできるか?

 私たちはふつう、無意識のうちに眠っている間は寝返りをうったり、長時間椅子に座っていると痛くなって、時々お尻を浮かせるなどして、同じ部位に長い時間の圧迫が加わらないようにしています。このような動作を「体位変換」といいます。しかし、自分で体位変換できない方は、体重で長い時間圧迫された皮膚の細胞に十分な酸素や栄養が行き渡らなくなるために、褥瘡ができます。また皮膚の表面だけでなく、皮膚の奥に位置する筋肉や骨に近い組織が傷ついている場合もあります。

 褥瘡はどんな人がなりやすいのか?  

 自分で体位変換ができず長期間寝たきり状態の人は、まず危険です。

 身体的な因子としては、加齢、低栄養、麻痺(まひ)、乾皮症などの皮膚の状態などが挙げられます。圧迫だけでなく、摩擦やずれなどの刺激が繰り返されている場合も褥瘡になりやすいといえます。褥瘡が起こっている患者さんで通常行われる検査は、血液像(特に貧血の有無)、血清アルブミン、血中の亜鉛の定量などがあります。低栄養がある場合はその改善を図ることが極めて大事です。

 また、褥瘡になりやすいため注意しなければならない病気として、糖尿病、脳血管疾患などがあります(表1)。褥瘡は、やむを得ない発生事例もあるとはいえ、予防の余地の大きい疾患です。

 褥瘡になりやすい体の部位は?  

 骨が突き出した部位は強く圧迫されて、褥瘡ができやすくなります。褥瘡のできやすい部位は、寝ている体の向きや姿勢によって違ってきます

 褥瘡の好発部位は、図1のように、仰臥(が)位で生じる▽側臥位で生じる▽座位・車椅子などで生じる―といった具合に場所が分かれますので、注意してください。

 褥瘡の前ぶれはどのような状態か?  

 褥瘡のできやすい部位の皮膚が赤くなっている場合、それが褥瘡であるのかを確かめる簡便な方法として、人さし指で赤くなっている部分を軽く3秒ほど圧迫し、白っぽく変化するかどうかを確認する「指押し法」があります。押したときに白く変化し、放すと再び赤くなるものは褥瘡ではありません。押しても赤みが消えずそのままの状態であれば、初期の褥瘡と考えます。次いで、褥瘡の評価方法として、一般にDESIGN(デザイン)分類が使われています。この分類は、定性的な重症度評価のための尺度となります。

 D=Depth(深さ)・E=Exudate(浸出液の多寡)・S=Size(大きさ)・I=Inflammation(炎症、感染の有無)・G=Granulation tissue(肉芽組織の性状)・N=Necrotic tissue(壊死組織の有無)を表します。これに、P=Pocket(ポケット)の有無を付け加えて評価します。ポケットが存在しない場合は何も書かず、存在する場合のみDESIGNの後に-(マイナス)Pと記述します。(詳細は褥瘡学会HP(http://www.jspu.org/jpn/info/design.html)を参照してみてください)。

 褥瘡の進行度による分類としては、多くの実地医家では深達度のみによる分類法であるNPUAPステージ分類(図2)が比較的よく使用されています。

 I度 局所の発赤のことです。表皮の剥離やびらん形成が見られます。

 II度 皮膚に潰瘍ができている状態のことを言います。真皮までの皮膚が欠損しており、水泡形成が見られることもあります。ここでは皮膚感染を起こしやすいので、清潔に気を付けなければなりません。

 III度 皮下組織にまで達する欠損が見られることです。

 IV度 筋肉や骨までの損傷を言います。ここまで損傷が達してしまうと、骨髄炎や敗血症を発症するリスクも高いです。

 褥瘡の治療 

 褥瘡の治療の基本は、除・減圧(支持面の調整と2時間ごとが基本とされる体位変換)、皮膚面の保湿と保清(清潔)、栄養管理、そして患者さんやご家族の教育です(図3)。入浴は創の有無を問わずおおいに推奨されています。

 最近では褥瘡などの創傷治癒に特化した皮膚・排泄(せつ)ケア認定看護師が活躍しています。また、水分の出納の管理(脱水予防)も含め、近年では管理栄養士の役割が飛躍的に重要となっています。他に重要な関連職種として、薬剤師、リハビリテーション療法士があげられます。こうした他職種が連携するチーム医療が大事です。

 褥瘡の評価治療は創の状態により外用薬と被覆材(ドレッシング)による保存的治療や外科手術が主として行われます。乾燥は創治癒を遅延させますので要注意です。そのために病変部は毎日洗浄し、フィルムなどを使い湿潤を保つことが大事です。炎症を除去して、皮膚局所の血行の改善に努めることが必要です。血行改善といっても、褥瘡部位の組織・血管は脆弱(ぜいじゃく)化しているので注意が必要です。創局所のマッサージやドライヤーなどによる加熱・乾燥は禁忌です。表皮にびらんや潰瘍が生じた場合には、創の乾燥を防ぎ湿潤環境を保持する湿潤療法を行います。創傷被覆材による創面保護ですね。ただし、感染や壊死組織がある場合にはその管理を優先させます。創はまず洗浄を定期的に毎日行なうのが良いです。洗浄は、創周囲をむしろ主に薬用石鹸(せっけん)等を使用して愛護的に行い、生理食塩水や水道水などでよくすすぐようにするといいです。

 皮膚潰瘍内に壊死組織がある場合には壊死組織の除去が必要です。壊死組織の除去には、綿球やガーゼを用いて水洗したり、外科的切除(デブリードマンといいます)が行われます。細菌感染がなければ消毒の必要はありません。感染による発熱などの全身症状には抗生剤の全身投与が必要となります。損傷部位がポケット状になっている場合には、可及的早期に皮膚切開によるポケットの開放を行います。感染があり膿貯留が見られる場合は十分な排膿が必要となります。壊死した筋肉組織や軟部組織及び腐骨となった部分は可及的に切除します。最後に、皮弁形成術について説明します。

 皮弁形成術 

 皮弁とは、「血流のある皮膚・皮下組織や深部組織」を移植する手術方法です。文字通り「形を成し元通りに復元する」ことを目的とする形成再建の分野では、最も重要な手術手技のひとつでもあります。皮弁では、付着した栄養血管を通じて豊富な血流があるため、移植先の状態が多少不良でも創治癒が早く、強度と柔軟性を兼ね備え、移植部への適合性も良好です。また、折り畳んだり、巻いたりすることができることからいろんな形態を形成できるようになり、ポケットを有するような褥瘡の手術材料として最適です。従来の皮弁には筋肉を付着させる筋皮弁が主流でしたが、最近では手術後の歩行機能などを考慮し、筋肉は採取せず皮膚と脂肪のみを移植する方法も行われています。

 治癒後は適切なアフターケアを継続する必要があります。先に述べましたが、褥瘡の発生リスクを有する寝たきりの高齢者などは常に再発と隣り合わせです。再発予防につとめ、定期的な専門医のアフターフォローも重要です。

 こうした褥瘡に関する悩み相談として、岡山西大寺病院では毎週金曜日の午前11時~正午、褥瘡外来(担当=松本洋、小林直哉)を行っています。気軽にご相談ください。



 岡山西大寺病院((電)086―943―2211)

 こばやし・なおや 広島大付属福山高、岡山大医学部卒。国立福山病院(現国立病院機構福山医療センター)、米・ネブラスカ州立大医療センター、岡山大病院消化管外科講師などを経て、2012年から現職。プライマリ・ケア連合学会指導医、岡山大病院臨床教授、日本がん治療認定医機構がん治療認定医、日本外科学会外科専門医。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2015年07月06日 更新)

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