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切らずに治すがん陽子線治療 岡山大病院・津山中央病院市民公開講座

勝井邦彰岡山大病院放射線科助教

藤木茂篤津山中央病院院長

金澤有岡山大病院副院長

 岡山大病院(岡山市北区鹿田町)と津山中央病院(津山市川崎)は5月末、同大Jホールで市民公開講座「切らずに治す がん陽子線治療」を開いた。両病院が共同運用する「がん陽子線治療センター」が来春、津山中央病院にオープンする。藤木茂篤・津山中央病院長ら3人の新しい放射線治療に関する講演の要旨を紹介する。

岡山大病院放射線科助教 勝井邦彰
腫瘍だけに集中照射

 放射線治療は臓器を摘出することなくがんを治したり、痛みや呼吸困難などがんに伴う症状を軽減または予防する。

 従来使用されてきたエックス線と同様、今回新たに導入する陽子線などの粒子線は、体外からの外(がい)照射で行う。エックス線は現在、がんの形状に応じて高圧で照射できる。しかし体表から数センチが線量ピークとなるため、体の奥にあるがんを治療するには複数方向から照射する必要があり、正常な臓器や組織にも不必要に当たる難点がある。

 一方、粒子線は腫瘍部分に線量ピークを合わせることができるので、不必要な照射を減らせる。

 例えば食道がん。エックス線ではお腹側と背中側から照射が必要だが、健康な心臓や肺などにも当たる。全国的な調査では、エックス線でがんが消失した182人のうち、1割以上が呼吸不全や心不全などで亡くなったというデータもある。陽子線は腫瘍だけに集中照射できるのが大きなメリット。副作用が減るのではと期待されている。

 陽子線治療は、水素原子の電子をはぎ取り、残った原子核(陽子)を加速器「シンクロトロン」で光の速さの70%まで加速、回転ガントリーで方向を変え、患者に照射する。食道がんのほか、肝臓や首周辺のがん、エックス線がききにくい腺がんなどに向いている。半面、広範囲の照射には適さない。

 照射は1日1回を最大週5回、合計で数回から30回以上。十分な説明の後に、照射時に体を固定する器具を作成。コンピューター断層撮影(CT)検査などを行って治療計画をつくり、医師や診療放射線技師、医学物理士らで計画を検討してから実際の治療を開始する。

 副作用として、二日酔いのような症状が出る場合があるほか、照射部位によってただれや皮膚の日焼け、脱毛などが起こる。数カ月~数年後に出る症状もある。医師は予想される副作用を治療前に必ず説明するので、納得してから治療を選択してほしい。

津山中央病院院長 藤木茂篤
総合病院で西日本初

 津山中央病院でがん治療する患者は年々増加しており、昨年は1285人。そのうち開胸、開腹内視鏡手術は根治性が高いが、適用となるのは約60%。40%は化学療法、放射線治療を行う。近年は放射線治療を適用する例が増加している。

 がん陽子線治療センターは、岡山大病院と共同で16年3月の運用開始を目指し、8月に施設完成、9月には試運転を始める予定。陽子線治療施設が全国でも10カ所と少ない中、地元大学病院との共同運用は、将来全国的なモデルとなるのではないか。

 同センターは中四国では初であり、総合病院としては西日本唯一でもある。入院対応可能で、がん以外の病気も同時管理しながら治療ができるのが利点。九州や近畿の患者にも選択肢の一つとなる。

 治療を受けるには、かかりつけ医からの紹介で、岡山大か津山中央の専門外来を受診してもらう。適用となればセンターで治療を受け、治療後の管理は行う。保険外診療で費用は約300万円と高額になる。がん保険の先進医療特約などを活用してほしい。

岡山大病院副院長 金澤右
医師派遣や研究に力

 高齢化の進展など社会情勢の変化とともに、医療情勢も変化している。がん患者の多くが、心臓病や糖尿病など複数の病を同時に患う複合疾患化が問題となっている。

 医療費も増加し続け、卒後臨床研修制度によって若手医師は都市部に集中している。今後地域医療を守っていくには、医療の効率化が求められている。あらゆる病院に同じ医療機器を導入するより、一つの地域で医療資源を有効活用していく方がいい。今回センターの共同運用で両病院が連携を強めたことは、良質な地域医療の促進につながる。

 センター運用に当たり岡山大病院は、粒子線治療の先進施設である兵庫県立粒子線医療センター(兵庫県たつの市)に医師4人を派遣し、治療のトレーニングを実施。16年1月には両病院に専用の外来を開設し、岡山大からは治療専門常勤医を派遣する。今年12月には津山中央病院の協力で専門講座を設け、大学病院として陽子線治療の研究にも力を入れる。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2015年07月06日 更新)

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