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(15)口腔顔面痛・インプラント 岡山大歯学部長 窪木拓男教授 QOL向上へあご骨再生研究

窪木拓男教授

くぼき・たくお 井原高、岡山大大学院歯学研究科修了。2003年から同大大学院医歯薬学総合研究科教授。同大病院副病院長、同大大学院医歯薬学総合研究科副研究科長などを歴任し、12年から歯学部長を併任。関節学会、日本接着歯学会、日本口腔リハビリテーション学会の各理事など務める。53歳。

 ―口腔顔面痛とはどんな症状を言いますか。

 窪木 頭や顔、口、首、肩などの痛みの総称です。あごが痛んだり、口が開けにくくなる顎(がく)関節症はその代表的なものです。原因はさまざまで、鋭いびりびりした痛みを感じる三叉(さんさ)神経痛、歯科治療や外傷、ウイルス感染により神経に障害が生じ長期間強い痛みを感じる神経障害性疼(とう)痛、原因不明の鈍痛が続く非定形性顔面痛などがあります。時には、歯に原因がないのに歯が痛むことがあります。全身に痛みが生じる線維筋痛症という病態もあります。大学病院では専門外来を設け対応しています。

 ―顎関節症は比較的患者が多いですね。

 窪木 顎関節症は20~30代に発症が多く、この年代の女性は約3割、男性は約2割に何らかの症状が現れます。関節円板という線維軟骨でできたクッションの位置がずれたり軟骨がすり減るなどして、カクカク、ジャリジャリといった音がしたり、口が開けづらくなりますが、軽症の場合は自然にクッションが再生され症状が治まる場合もあります。硬いものをかんだり口を大きく開けたときに、顎関節や咀嚼(そしゃく)筋に痛みを感じることもありますが、その程度は人それぞれです。

 ―原因は。

 窪木 ストレス、かみ合わせ、遺伝、歯ぎしり、睡眠障害、精神疾患のほか、交通事故でも起こり得ます。まれですが、口腔顔面痛は心臓の病気で起こる場合もあります。

 ―どうやって治しますか。

 窪木 口腔顔面痛の治療では、神経の興奮を鎮める抗けいれん薬や抗うつ薬をよく処方します。一方、顎関節症の治療では、消炎鎮痛剤を内服してもらったり、口を開けたり関節を動かす訓練をしたり、マウスピースを使って歯ぎしりを抑制したりすることにより、多くは治ります。私たちは、ほおに貼るだけで歯ぎしりがどの程度起きているかを調べるセンサーをイスラエルの医療機器メーカーなどと共同開発し臨床で使っています。頻度は低いですが、関節の炎症を抑える注射をすることもあります。

 ―インプラント治療をたくさん行っていますね。

 窪木 口腔インプラントは義歯を取り外す必要がなく、違和感の少ない自然な生活を送ることができます。歯科医にとってもたくさんの歯をつなぐ複雑なブリッジや義歯を作ることなく、長期にわたり患者の口腔内を安定させることができるという点でメリットがあります。

 ―治療方法は。

 窪木 あごの骨内にチタン製の人工歯根を埋め込みそれを土台に人工の歯を装着します。通常は、人工歯根があごの骨と結合するのを待って数カ月後に人工の歯を取り付けます。ただ、あごの骨量が十分あるなど一定の条件がそろっている場合はインプラントを埋めたその日のうちに仮歯まで入れ、1回の手術で終わらせることもあります。

 ―インプラントができない人もいると聞きます。

 窪木 骨が成長途上の子どもやチタンへのアレルギーがある人はできません。あごに放射線治療をしたり、ステロイド剤や骨粗鬆(しょう)症の薬を服用している場合は、骨がもろく感染しやすい可能性があり、歯科医とよく相談することが肝要です。保険が適用されないため、1本当たり30万円程度かかります。ブリッジや入れ歯という選択肢もありますので、事前に治療計画と治療費について詳しい説明を受けることが大事です。

 ―義歯の土台となる人工歯根の周囲に骨を再生させる研究を行っているそうですね。

 窪木 先天疾患や歯周病、交通事故であごの骨を失ったり、悪性腫瘍であごの骨を取り除かざるを得ない人のQOL(生活の質)向上が目的です。特殊なタンパク質を大腸菌から作り出す研究を続けており、数年後の臨床応用を目指しています。

 ―口腔ケアが全身の健康にも大きく影響するそうですね。

 窪木 歯の健康を損なうと、肉などのタンパク質や野菜などの繊維質のものを食べる量が減り、その結果、栄養不足や動脈硬化が進み、筋肉の衰えも相まって要介護状態に陥りやすいと言われています。脳への刺激も減り、歯を多数失った方が義歯を入れずにそのままにしていると認知症になる割合が2倍程度に増えることも分かっています。要介護になるのをできるだけ遅らせるために、われわれが果たす役割は非常に大きいと考えています。

 ―歯科治療における大学病院の使命は。

 窪木 口唇裂・口蓋(がい)裂総合治療センター、口腔がん外来などの専門外来を設けています。白血病などの血液疾患や悪性腫瘍などでは、口腔内の衛生状態が悪いと口腔内の痛みが強くなったり薬の副作用が強く出ることがあり、医科と連携し入院患者の治療を行っています。



 岡山大病院(岡山市北区鹿田町2の5の1、(電)086―223―7151)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2015年07月06日 更新)

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