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玉野市内で設置進むAED “使い手”の養成が課題 求められる「救命の連鎖」

設置が進むAED。ハードとソフト両面の整備が望まれる

 突然の心停止に有効な医療器具AED(自動体外式除細動器)の設置が玉野市内各地で進んでいる。今後も増設が望まれるが、ハード面の整備だけでなく、機器を使うことのできる市民を増やすことも必要だ。9日の救急の日にちなみ、市内のAEDによる救急救命の現状と課題をリポートする。


 三月下旬、市内のある六十代の男性がAEDに命を救われた。「胸が苦しくて、冷や汗が出る」と訴えた男性は、病院へ向かう救急車の中で突然、意識を失い、心停止に陥った。除細動(電気ショック)が必要と判断した救急隊は、AEDで男性の体に電流を流した。

 「ドン!」。心電図は正常な波形に戻り、男性は意識を回復。急性心筋梗塞(こうそく)と診断され、約二週間の入院後、退院し無事、社会復帰を果たした。

 「この男性は非常に幸運なケース。だが、いつ、どこで起きてもおかしくないことなんです」と搬送した救急隊員は説明する。


◆県立高などに20台◆

 AEDの使用が一般市民にも解禁された二〇〇四年七月以降、設置は急速に進む。市内では、救急車、すこやかセンター、玉野競輪場、二つの県立高など公共施設十カ所をはじめ、医療機関やスポーツクラブなどに計約二十台が置かれている。

 だが「現状で十分とはいえない」と市医師会の大西正高会長。「公共施設のほか、駅やスーパーなど人が集まる場所には必ず設置すべきだ」と提言する。

 県施設指導課によると、県内の設置台数(三月末現在)は約九百台。昨年の岡山国体を契機に公共施設を中心に配備が進み、県立施設にはほぼ設置済みだ。「機器を置くことが啓発にもつながる。市庁舎や分庁舎、支所は多くの人が集まることから設置の動きは活発」(同課)で、九割以上の市町村は市庁舎や役場に機器を置いている。ただ、玉野市役所や市民センターには、AED搭載の救急車が五分以内に到着できることから未設置のままだ。


◆落ち込む受講者数◆

 一方、機器があっても“使い手”がいなければ、人命は救えない。

 市消防本部は一九九六年から市民を対象とした救命講習会を年十回程度開催。二〇〇五年四月からは心肺蘇生(そせい)法や止血法などに加え、AEDの使い方も盛り込んでいる。

 救命講習を受けた市民は十年間で約四千人。だが、ここ数年、受講者は減少の一途でピーク時(年間約千人)の四分の一に落ち込んでいる。AED講習を始めた〇五年以降も増加せず、AEDの使用法を学んだ市民は約四百人にとどまる。

 高齢化や生活習慣病の増加などを背景に、心疾患の患者は増加が懸念される。市内で、救急車が現場到着するまでの時間は平均四・七分(〇四年中)。心停止後、蘇生率は一分経過するごとに7~10%低下するとされ、五分で50%、七分で30%に下がる。

 この数分間での市民の活動が救命の“鍵”。市消防本部は「救急車が着くまでの市民の協力は欠かせない」と強調し「市の広報誌などで積極的にPRし、受講者を増やしていきたい」と話す。

 大西会長も「まず、身近な救命事例を多くの市民に知ってもらうことが不可欠」と言い、行政と医療機関が両輪となったハード整備とともに、使い手の養成を訴える。

 市民による応急手当て、救急隊の救命処置、医療機関の医療処置へとつなぐ「救命の連鎖」こそが、尊い人命を救うことを忘れてはならない。




ズーム

 AED 音声ガイドに従って操作すると、心臓の動きを自動解析し、必要と判断すれば電気ショックを与える救命機器。心室の筋肉がけいれんしたようになる致死性の不整脈・心室細動に対して有効。医師や救急救命士らに限られた使用が2004年7月、一般市民にも解禁された。約20センチ四方、重さ2、3キロで持ち運び可能。1台20万~30万円。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2006年09月08日 更新)

タグ: 健康医療・話題

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