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15歳未満臓器移植の課題を聞く 改正法施行5年で岡山大2医師に

岡山大大学院心臓血管外科 佐野俊二教授

岡山大病院臓器移植医療センター 大藤剛宏教授

 15歳未満からの脳死移植に道を開く改正臓器移植法が施行され、5年を迎えた。この間、全体の移植数は計244例(6月末現在)に上り、14年間で86例だった改正前に比べて大幅に増えた一方、15歳未満からの提供は7例にとどまる。岡山大病院(岡山市北区鹿田町)で、うち2例に携わった2人の医師に、現状や課題を聞いた。

国民理解進まず 後絶たぬ海外渡航
岡山大大学院心臓血管外科 佐野俊二教授


 ―2013年12月に手掛けた中四国地方初となる脳死心臓移植は、臓器提供者(ドナー)が小児だった。

 長崎県の病院で脳死と判定された10歳以上15歳未満の男子から心臓の提供を受け、10代女性に移植した。女性は待機期間が3年間に及び、状態が悪化した時期もあったが、日常生活に戻ることができた。無事成功させられ、感慨深い。

 ―法改正後の小児移植の実情をどう感じているか。

 国民の理解があまり進まなかったと感じる。移植医療には日本固有の死生観、倫理観、宗教観などが絡み合う上、成人と異なり、回復力が強い小児の脳死判定は難しく、脳死の原因が虐待である可能性もケースによっては否定できない。法律を改めれば小児移植が増えるわけではない。

 ―心臓移植のため海外渡航する子どもが後を絶たない。

 日本臓器移植ネットワークに登録する15歳未満の待機患者は6月1日時点で22人。体の大きさに合う心臓のサイズは限られるため、国内での移植を待てずにやむを得ず海外に渡っている。国も医療関係者も現状を重く受け止めるべきだ。

 ―中四国唯一の心臓移植拠点として今後どう臨むか。

 移植医療はスタッフが大量に必要で、コストもかかる。病院経営的に決して有利ではないが、誰かがやらなければならない。歴史があり、高い医療レベルを誇る岡山大だからこそ貢献できる分野だ。気概を持った若手医師を育てるとともに、国に現場の声を積極的に届けていくことが大切だと思っている。


足りないドナー 地道に意味を説明
岡山大病院臓器移植医療センター 大藤剛宏教授


 ―15年1月、ドナーとなった6歳未満の女児から8歳女児への脳死肺移植を行った。

 ドナーの女児は心臓移植の待機中に脳梗塞で亡くなり、「同じような境遇の方に少しでも光がともせたら」とご両親が決断された。体は異なるが、女児の命は生き続ける。こうした「命のリレー」が増えれば、移植医療の素晴らしさへの理解も広がるだろう。

 ―法改正でドナーの増加が期待された。

 移植数は年間50例前後と、10例程度だった改正前より増えたが、移植を必要とする全ての人を救うには足りない上、小児に限ればわずか7例だ。一人一人が臓器を提供する側、受ける側を想像しながら万一の時のことを家族で考えてほしい。

 ―全国各地で講演活動に力を入れている。

 移植医療の充実に向け、多くは医師を対象に講演していた。その一方で臓器提供を増やそうと、最近は次世代を担う中学生や高校生に、移植医療の基本や提供行為の意味を説明している。地道だが、草の根運動と思って頑張っている。

 ―新たな移植手術に次々と挑んでいる。

 乳幼児は臓器の大きさが一致する提供者がなかなか現れない。通常使う生体肺の下部よりサイズの小さい中央部分を3歳児に移す「生体肺中葉移植」を13年に、下部を分割して2歳児の両肺に植え付ける「生体肺区域移植」を14年に、いずれも世界で初めて成功させた。この方法を脳死移植に応用すれば、生体移植が受けられない乳幼児の新たな治療法となる。困難に立ち向かい、技術革新を重ねたい。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2015年07月19日 更新)

タグ: 岡山大学病院

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