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(1)角膜 岡山大学病院診療講師 大本雅弘

大本雅弘講師

 角膜は黒目の表面にある透明な組織で、眼球に入ってくる光を網膜に集めるためのレンズの働きをしています。

 レンズと言えば水晶体が思い浮かびますが、水晶体は主にピント調節をする働きをしていて、実は角膜が光を集める力は、水晶体のおよそ2倍もあります。角膜は人体の中でも少し特殊な組織です。まず血管が無く透明であること、形が精密に整っていること、そして表面が濡れてツルツルしていること。これらのどれが欠けても、良好な視力を保つことはできません。

 また、痛みを感じる神経が非常に多く通っていることも特徴で、体の中で最も敏感な部分と言われています。敏感なことは大切な角膜を外敵から守る上で重要なため、小さいごみやまつ毛が入っただけでも大変煩わしい思いをするのです。

 角膜の感染症

 角膜の表面にある角膜上皮細胞は、細菌などの外敵に対して非常に強いバリア機能を持っていますが、コンタクトレンズやドライアイ、異物等によって傷がつくと、角膜上皮の下にある角膜実質や、さらには眼球の中にまで菌の侵入を許すきっかけになってしまいます。つまり、少し傷がついた段階で、放置せずに適切な治療を受けることがとても大切なのです。

 では、もし角膜に菌が感染してしまったら? それぞれの菌に合った抗菌薬や抗真菌薬を点眼したり、全身投与したりすることになりますが、角膜には血管が無く、菌に対して抵抗力のある白血球が効率良く働くことができないため、治りづらく、角膜が濁ってしまうこともあります。

 最近はコンタクトレンズ使用者の増加に伴い、アカントアメーバ感染症が増えています。アカントアメーバは土壌や水道水にも存在する原虫で、有効な治療薬がないため、角膜に感染すると治療に大変時間がかかる場合があります。

 角膜疾患の治療~角膜移植

 感染などさまざまな原因で角膜が濁ったり、むくんだり(水疱(ほう)性角膜症)、形がいびつになってしまったら(円錐(すい)角膜、不正乱視等)―最終的な治療法は角膜移植です(図1)。傷ついた角膜を元の機能的な状態に戻すには、亡くなった方から提供されるドナー角膜を移植する方法が、現在では最も優れた治療法です。

 「移植」というと大変な手術を想像してしまいますが、傷ついた角膜を取り除き、きれいな角膜を眼に固定するというとてもシンプルな手術で、最も多く行われている臓器移植でもあります。また近年では、従来から行われている全層角膜移植に加え、悪い部分だけを移植する「パーツ移植」も盛んに行われるようになり、より安全性の高い手術になりました(図2)。角膜の表面だけが濁っている場合は深層層状角膜移植、角膜の一番内側の内皮細胞が障害されて、角膜がむくんでしまった場合は内皮移植が適しています。

 ドナー角膜の提供不足

 角膜移植にはドナー角膜が必要ですが、日本では移植が必要な患者さんの数に比べて、角膜の提供が非常に少ないのが現状ですから、移植を受けるまで長い順番待ちをしなければならないことが多く、これも角膜移植が敬遠される一つの要因です。しかし最近は、米国等ドナー角膜が足りている国から輸入して手術をする施設も増えてきました。今まであきらめていた方も、まず主治医に相談してみてはいかがでしょうか。

 おおもと・まさひろ 岡山芳泉高、獨協医大卒。慶応大大学院医学研究科修了。東京歯科大市川総合病院眼科、慶応大病院眼科、米ハーバード大眼科付属病院で角膜疾患の治療・研究に携わり、2014年から現職。医学博士。日本眼科学会専門医。大本眼科医院院長。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2015年08月03日 更新)

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