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(2)食道がんに対する鏡視下手術 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科消化器外科学准教授 岡山大病院消化管外科副診療科長 白川靖博

白川靖博準教授

実際の胸腔鏡手術の様子(右)と半年後の胸の傷(左)

 近年多くの外科手術においては、腹腔(ふくくう)鏡や胸腔鏡という体の中をのぞくカメラと細い道具を用いて行う鏡視下手術の割合が増加してきています。もともとは胆石症のような良性疾患から導入されましたが、現在は種々の悪性腫瘍に対しても適応が広がってきています。そして、傷は小さくても根治性は変わらないことが分かってきており、われわれの専門である食道がんに対しても鏡視下手術を行う施設が増えてきています。

 食道がんの中でも頻度の高い胸部食道がんの手術は、胸部、腹部、さらに頸部(けいぶ)からのアプローチが必要です。従来の開胸と開腹を一緒に行う手術では、侵襲が予想以上に大きくなることが分かっています。このため、胸部食道がんに対する鏡視下手術の導入は、低侵襲性の面からもメリットが大きいと考えられているのです。体の傷が小さくて痛みが少ないというだけでなく、手術後の早い時期から動けるようになり、入院日数も短縮され、さらに肺炎等の術後合併症も減少することが期待されています。

 しかしながら昨今、鏡視下手術による事故や死亡例の報告が報道されているのをご存じの方も多いと思います。もちろん報道の有無にかかわらず、新しい術式を導入する際には、安全性を一番に考慮する必要があると考えられます。われわれの岡山大学病院では、2011年6月より胸部食道がんに対する鏡視下手術を開始しています。これまでに220例を超える経験があり、日本でもトップクラスです。手技も安定しており、食道がん手術の内視鏡外科技術認定医も輩出しています。

 また、われわれは、胸部食道がんに対する胸のパートを腹臥位(がい)(うつぶせ)の鏡視下で行っています。この方法では、術者、助手、手術の道具を渡してくれる看護師さん、さらには外で見ている研修医や学生に至るまで皆が同一の画面を見ながら手術を行うことが可能です。これまでの手術では、場所によっては術者だけしか大事なところが見えていませんでしたので、教育的なメリットは大きく、次世代の術者育成にも役立っていると思われます。

 なお、最近の鏡視下手術に用いるカメラや機械の進歩も目を見張るものがあり、施設によってはロボットも導入されています。特に画像については、一般のご家庭にあるテレビやビデオカメラの進歩と同様に、フルハイビジョンはもちろん、3Dでの手術も可能となってきています。胸部食道がんの手術においては、食道の周囲に重要な血管や神経がたくさん存在しており、細い神経を1本損傷するだけでも声が嗄(か)れてしまうというような合併症が起こり得ます。

 しかし、今日の進歩した高解像度あるいは3Dの画像を用いますと、肉眼やかつてのカメラでは見えていなかった微細な構造も確認することが可能であり、部分的には開胸や開腹の手術より良く見えてやりやすいところもあります。ということで、胸部食道がんにおいては、体に優しいということを目標に始まった鏡視下手術なのですが、精度の高い手術が可能となったことにより、合併症も少なくなり、最終的には予後にも貢献するのではないかと期待されています。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2015年08月03日 更新)

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