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病床数削減、県内でも検討開始 岡山大大学院浜田教授に聞く

浜田淳教授

 政府の専門調査会が2025年時点の望ましい病院ベッド(病床)数を全国で約115万~119万床程度とし、41道府県に削減を求めた報告書を受け、岡山でも県保健医療計画策定協議会の部会で検討が始まった。現在の2万6100床(13年)のうち2割強の5900~6500床が過剰とされており、15年度中に結論を出す予定だ。部会メンバーで厚生労働行政に携わった経験のある浜田淳・岡山大大学院医歯薬学総合研究科教授(医療政策)に報告書の背景や県内の現状などを聞いた。

 ―2025年を見据えた政府の報告書が出た。

 25年には1947~49年生まれの団塊世代が全員75歳以上になる。日本の総人口は減ってくるが、75歳以上の高齢者は逆に増える。岡山県の場合、13年の人口約195万人が25年には約181万人と14万人ほど減少する。一方で75歳以上は26万人から34万人と3割増になる。

 ―高齢者が増えれば医療・介護の需要も高まる。なぜ病床が過剰になるのか。

 高齢者の増加とともに患者数は増えるので病床削減に矛盾を感じる人も多いだろう。ただ、政府は「病院完結型」の医療から医療と介護が連携した「地域完結型」への転換を目指している。自宅での療養や介護の受け皿を増やすことによって病床を減らすことを考えている。不必要な入院や長期療養を減らして年間約40兆円に上る医療費の伸びの抑制を図るという思惑もある。

 ―県の対応は。

 県が試算をやり直した上で、県保健医療計画策定協議会の部会で検討する「地域医療構想」に反映させていく。構想は25年の県医療の在り方を描いたビジョンで、実現させるために地域ごとに医療・介護関係者や研究者による協議の場も設け、実情に応じた議論をしていく。

 ―削減に向けた議論は難航も予想される。

 確かに紆余(うよ)曲折はあるだろう。高齢者が長期入院する療養病床では寝たきりや認知症で家に帰ることができない人もいる。在宅サービスが不十分な地域で病床の削減を最優先させて患者が行き場を失ってしまうことになれば、本人や家族にしわ寄せが及ぶ。協議の場に患者や家族、地域住民も加わり、より現実に沿った議論が求められる。

 ―今後、医療や介護はどう変わっていくか。

 25年の日本は年間150万人が亡くなる「多死社会」になる。発病から亡くなるまでのクオリティー・オブ・デス(死の質)を含む生活の質全般について、患者や家族が主体的に考え、選択していく時代になると思う。現役世代にとっても親の介護など避けて通れない問題を抱える。死が身近な存在となる中、どのような治療を受けたいか、最期の日々をどう過ごしたいか、病院任せではなく普段から家族間で話し合うことが大切だろう。



 2025年時点の病床数に関する報告書 有識者をメンバーとする政府の専門調査会が6月にまとめた。どういった入院治療が実施されたかを記した膨大な数のレセプト(診療報酬明細書)を活用。将来の人口推計を踏まえ、25年の入院治療の需要や適正な病床数を算出した。全国の病床数は134万7000床(13年)。削減幅は岡山など27県が2割以上、うち9県が3割以上に上っている。東京や神奈川、大阪といった6都府県については高齢者が大幅に増え、病床の増加が必要としている。



 はまだ・じゅん 1978年、厚生省(現厚生労働省)に入省。同省大臣官房企画官、内閣府参事官、信州大医学部教授などを歴任し、2007年3月に退官。同年4月から現職。横浜国立大卒。神奈川県出身。60歳。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2015年08月28日 更新)

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