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脳死移植、大人の肺を子どもに 岡山大病院が新手術に備え

 脳死肺移植のうち、医学的理由で提供を見送る大人の肺から傷んでいない部分を切り取って体の小さな患者に移植する手術が可能となり、子どもへの移植の選択肢が広がると期待されている。これまで脳死臓器提供者(ドナー)の肺は、肺炎などの影響で3分の1が移植を断念しており、肺移植では国内有数の実績を誇る岡山大病院(岡山市北区鹿田町)は、さまざまなケースを想定しながら新たな移植手術に備えている。

 新たな手術は昨年4月、患者の選択基準の見直しで可能になった。移植を受ける候補者は従来、肺の大きさの一致が条件の一つだったが、サイズが違っても血液型が合えば候補者リストに加えることができ、大柄な人から小柄な患者へ、大人から子どもの患者への移植に道を開いた。

 岡山大病院の大藤剛宏教授によると、移植するのは肺炎や肺気腫などで一時的に機能が低下し、大人への提供が断念された肺。移植を受ける患者(レシピエント)は2~15歳程度を想定している。

 肺は右が上葉、中葉、下葉、左が上葉、下葉に分かれている。傷みがある場合、多くは下部で見受けられるといい、体の大きさに合わせて左右の上葉、片方の上葉の移植を見込んでいるほか、中葉移植や生体移植との併用も検討する。

 日本臓器移植ネットワークによると8月31日現在、脳死臓器提供339例のうち、肺移植は118例が医学的な理由などで断念。2010年施行の改正臓器移植法は15歳未満からの脳死移植を可能としたが、提供は7例、うち肺移植は4例にとどまる。

 岡山大病院は肺移植では145例の実績がある。13年には、母親の右肺の中葉を3歳男児へ移植する手術に世界で初めて成功。14年には、2歳男児に母親の左肺の下葉を切り分けて肺として機能する最小単位の「区域」に分割した後、左右の肺として移植する手術も成し遂げた。

 院内では4月、より効率的に安全で高度な移植医療を提供するため、スタッフを一元化した臓器移植医療センターが本格稼働。センター長も務める大藤教授は「今後、脳死ドナーは増えるという試算がある一方、現状では小児に移植の機会が巡ってくる可能性は低い。新しい手法で脳死肺移植ができれば、病と闘う子どもたちにとって福音となる」としている。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2015年09月03日 更新)

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