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(17)精神疾患治療 万成病院 清水義雄副院長

笑顔で患者と接する清水副院長

診断に時間かけ最適の薬選択

 キャリア20年を超えるベテランが肝に銘じていることがある。「謙虚であり続けること」。画像や採血では見えない病が相手。確定診断を付けるまでに一定の時間がかかる場合があるためだ。

 診察に可能な限り時間をかけ、患者本人だけでなく家族や周囲の人にも協力してもらい、幅広い情報を集めるのが正確な診断を下す基本だ。

 特にうつ病と双極性障害(そううつ病)の判別は難しい。双極性障害は、そう状態が重いI型と、軽微なII型に分類される。うつ病との見分けがより難しいのがこのII型だ。そう状態の時には患者自身は受診の必要性を感じていない。その分、発見が遅れる。

 高齢者では認知症とうつ病の判別が難しかったり、この二つが同時に現れることも少なくない。

 「治療は薬物治療がメーンだが、診断と薬の選択は非常に重要」。たとえば、見分けるのが難しいうつ病と双極性障害では薬物療法の方針が違う。双極性障害で抗うつ薬だけを処方すると、そう状態が激しくなる恐れがある。いわゆる新型うつ病も抗うつ薬は効果が乏しい。統合失調症の社会復帰には薬物療法だけではなく、リハビリを組み合わせる必要がある。

 副作用にも万全の注意を払う。便秘や眠気、血圧低下など体調が悪化するだけではない。抗うつ薬は、若年層を中心に自殺願望を引き起こしたり、攻撃性を高めることがある。内科や外科などで治療を受けている場合には、内服中の薬の副作用でうつ症状が現れていることもある。統合失調症で使う抗精神病薬の中には糖尿病を悪化させるものもある。

 「治療方針を立てる上でも確定診断は早くできた方が良い。研修医のころは、初診の段階で数年後の患者さんの状態を予測しなさいと教わった。しかし、当初の診断を改めなければならないこともある。治療を行う過程で診断の精度が深まり、患者との信頼関係が深まるのが理想的」と強調する。

 「薬を増やすのはたやすいが、減らすタイミングを見極めるのは難しい。治ったと早合点して減らすと、再発につながることがある。まさに医者の技量の問われるところだと思う」

 精神科医は、病に対する患者の苦しみを理解できなければならない。多くの患者は、仕事の継続、職場や家庭での人間関係などの悩みを抱える。たとえ病状が良くなってもこうした悩みが一気に解決するとは限らないのだ。治療によって失われた時間をどう取り戻し、社会復帰できるかに心を砕く。

 「医者と患者というよりも、人と人として接し、患者の人生を支えたい」。清水が2009年、外来で急性期治療だけを行っていた大規模総合病院から精神科専門の万成病院に移ったのも、そんな思いがあったからだ。

 「医師ができることには限度がある。求められるのは総合力」。院内の看護師、精神保健福祉士、作業療法士ら、時には自治体の保健師や社会福祉協議会などとも連携し、一人でも多くの患者が元の生活に戻れるように努めている。

 院内の感染防止委員会の責任者も務める。コミュニケーションに支障を来したり、手洗いやうがいを自発的にできない患者もいる精神科の病院は、一般病院以上に感染症が広がるリスクを抱える。

 代表的な感染症は、結核やインフルエンザ、ノロウイルス、ダニが皮下に侵入して起こる疥癬(かいせん)、C型・B型肝炎、耐性菌であるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)など。毎朝の会議で、どのスタッフ、どの患者が感染したかを確認し、全員で情報を共有している。

 岡山大の学生時代、当時の神経精神医学教室教授・大月三郎の講義を受け、精神医学の奥深さに魅せられた。岡山県内外の中核病院で臨床経験を積み、野口英世が学んだことがある米・ロックフェラー大学にも1998年から3年間留学し研究に励んだ。

 「どれだけ経験を重ねても、分からないことがいっぱいある。今も毎日が勉強です」

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 しみず・よしお 倉敷古城池高、岡山大医学部卒。国立病院機構岡山医療センター、岡山大病院、岡山県精神科医療センター、広島市民病院などを経て、2009年から万成病院に勤務。11年から副院長。日本精神神経学会指導医・専門医、精神保健指定医、日本医師会認定産業医、臨床研修指導医、医学博士。47歳。
 万成病院(岡山市北区谷万成1の6の5、(電)086―252―2261)
  
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代表的な精神疾患と薬の選択

 うつ病や双極性障害、統合失調症の原因はまだ明らかになっていないが、それぞれの疾患に有効な薬物治療はある程度確立している。

 うつ病に有効な薬剤は、脳内の神経伝達物質であるセロトニンやノルアドレナリンの働きを助けるSSRIやSNRIといった薬が第一選択薬として使われることが多い。効果が見られない場合は、他の抗うつ薬への変更や、感情安定剤、抗精神病薬の併用も考慮される。

双極性のうつは注意が必要

 双極性障害のうつ状態に対して抗うつ薬を使用すると、そう状態の悪化など病状が不安定となることが多く、注意が必要。感情安定剤や抗精神病薬を中心に薬物療法を組み立てる。従来はそう状態に使う薬がうつ状態を悪化させる傾向があったが、近年はうつ状態を引き起こさない薬が開発されている。

 統合失調症に有効な薬剤は、脳内のドーパミンの働きを調整することが分かっている。近年は副作用の少ない非定型抗精神病薬が用いられることが一般的だが、従来の定型抗精神病薬が有効なケースもある。薬の飲み忘れを防ぐため、4週間に1度の筋肉注射である持続性抗精神病注射薬も開発されている。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2015年09月21日 更新)

タグ: 精神疾患万成病院

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