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(4)進化する消化管内視鏡治療 津山中央病院内科部長 竹中龍太

竹中龍太内科部長

図1 ESDの手技 【写真上から】がん病巣の全体像:隆起型の早期胃がん(矢印)▽まずがん病巣周囲を切開する▽粘膜下層を剥離する(本例では高度の瘢痕性変化を伴っている)▽切除したがん病巣(ホルマリン処理後)

図2 ソフト凝固止血法 【写真上から】ソフト凝固止血法のイメージ(オリンパス社ウェブサイトより転載)▽胃潰瘍からの出血を認める(矢印部が出血点)▽止血術直後の胃潰瘍

 消化管とは食べものを体内に摂取し、消化、吸収といった働きを行う器管のことで、具体的には食道、胃、小腸、大腸からなっています。消化管の病気は老若男女を問わずどんな方にもみられますが、加齢とともに増加する傾向があります。中でも、消化管のがんは無症状で進行することが多く、症状が出た時には半数が既に進行がんになっているともいわれます。このように無症状で進行するがんを早期発見し、また早期発見した病変に対し、体に対する負担の少ない治療を行うのに威力を発揮するのが内視鏡です。当院では内視鏡を使用した最新の診断・治療を積極的に取り入れ、地域の皆さまに提供しています。
 
▼ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)

 胃、大腸、食道の粘膜層にとどまる早期のがん病巣は、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)で切除します。1990年代後半に国立がんセンター中央病院で開発された技術で、現在では全国に広く普及している治療法です。当院では2002年に胃がんに対して初めて導入し、胃、大腸、食道あわせての治療実績は岡山県内トップクラスの約1900例を誇ります。

 ESDでは治療直後より離床することができ、翌日には食事を開始します。1週間後には退院し、通常の日常生活を送ることができます。開腹することなくがんを切除できるESDはQOL(生活の質)維持の上で極めて有用な治療法です(図1)。

▼LECS(腹腔鏡・内視鏡合同手術)

 LECSとは内視鏡治療と腹腔(ふくくう)鏡手術を同時に行うことで、必要最小限の侵襲で病変の切除を可能とする最も新しい手術方法です。

 消化管粘膜の下に病変が存在する粘膜下腫瘍に対する治療がもっともよい適応で、当院では14年に第1例目の治療を行いました。最近では病変を腹腔側に露出させることなく摘除することが可能な「Closed LECS法」を岡山大学病院と共同で導入しています。将来的には、内視鏡だけでは治療困難な早期胃がんへの応用も期待されている治療法です。
 
▼消化性潰瘍出血に対する内視鏡治療 

 ヘリコバクターピロリ菌による感染や、低用量アスピリンを含む非ステロイド性抗炎症薬が原因で発症する消化性潰瘍では、出血をきたすと生命に危険が及びます。吐血や黒色便で救急搬送されることになります。

 消化性潰瘍出血に対する治療法は内視鏡治療が第一選択で、良好な治療成績が報告されています。当院では前述したESDの際に用いるソフト凝固止血法を消化性潰瘍出血に対して応用し、実績を積み上げてきました。200例以上の出血に対して、ソフト凝固止血法単独で93%、従来の止血法と併用することでほぼ100%の止血成績を得ています。

 ソフト凝固止血法の特長としては、短時間で確実に止血することができ、再出血率が低いことがあげられます(図2)。

 超高齢化社会を迎え、消化管疾患はますます増加していきます。3次救急まで対応可能な岡山県北唯一の基幹病院である津山中央病院では、地域の人々が安心して高度医療を受けることができる体制を今後も整えていきます。

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津山中央病院(0868―21―8111)

 たけなか・りゅうた 兵庫県立姫路南高、岡山大医学部卒。同大医学部第一内科、国立福山病院(現福山医療センター)、国立がんセンター中央病院など経て2009年から津山中央病院。医学博士。日本内科学会指導医・認定医、日本消化器内視鏡学会指導医・専門医・学術評議員、日本消化器病学会指導医・専門医・学会評議員、米国消化器内視鏡学会会員。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2015年09月21日 更新)

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