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(2)緑内障 岡山大学病院眼科学教室助教 石原理恵子

石原理恵子助教

 わたしたちは、角膜・水晶体を通った光(視覚情報)が網膜上で像を結び、眼球から脳に向かってのびている視神経に入り、脳に色や形の情報を伝えることで物を「見る」ようにできています。緑内障は、この情報の橋渡しを行っている視神経が障害されて、視野(見える範囲)が徐々に欠損する病気です。

 しかし、実際に視野欠損が起こっても両方の目で補い合うため、中心まで障害されない限り視力は低下しません。また、欠損部位がくっきりと黒く抜けるわけではなく、初期~中期では脳が欠損部位を周辺の景色と融合させるため、自覚症状が出現しにくく、病気の発見が遅れてしまうことも珍しくないのです(図1)。そのためか、厚生労働省研究班の調査によると、現在わが国における中途失明原因の第1位を占めているのが、この緑内障という病気なのです(図2)。

 頻度 

 では、どのくらいの頻度で緑内障が起こるのでしょう。日本緑内障学会が2000年9月から01年10月にかけて行った大規模疫学調査(多治見スタディ)によると、40歳以上の日本人における緑内障有病率は5・0%でした。つまり、20人に1人の割合で緑内障患者がいることになります。

 さらに、この調査で見つかった緑内障患者のうちの約9割が未発見のまま放置されていたことも明らかになりました。緑内障があるにもかかわらず、これに気付かないで過ごしている方が大勢いるのです。また、緑内障罹(り)患率は年齢とともに増加していることも明らかにされており、少子高齢化に伴って今後ますます患者さんの数は増加していくことが予想されます。

 原因 

 目の中には房水と呼ばれる液体が循環しており、この房水の循環によって一定の圧力が眼内に生じて、眼球の形状を維持しています(図3)。この圧力のことを「眼圧」と呼んでいます。多治見スタディによると、日本人の平均眼圧は14・5mmHgであり、10~20mmHgが正常範囲と考えられます。

 緑内障では多くの場合、房水の排出がうまくいかないために眼圧が高くなり、視神経が圧迫されることで起こります。眼圧が高くなる機序によっていくつかの種類に分類され、眼圧が正常範囲を超えない正常眼圧緑内障という病型もありますが、総じて眼圧を下降させることによって、その進行リスクを抑えることができます。

 診断 

 緑内障の診断は眼圧検査、眼底検査、隅角検査、視野検査などを行い、総合して判断していきます。最近では、光干渉断層計OCTを用いて非侵襲的に視神経乳頭の形状や神経線維層の厚みを解析することもできるようになりました。

 視野欠損が出始めるときには、すでに視神経線維の約50%が障害されているといわれています。視神経線維層の厚みの変化は視野欠損の出現よりも先行して起こるので、光干渉断層計OCTによるこれらの解析は緑内障の早期発見や進行の評価に有用です。

 治療 

 現在の医療では、残念ながら一度失われてしまった視野を回復することはできません。そのため、視野が欠損していくスピードを遅らせる治療となります。緑内障の種類によっても多少治療法は異なってきますが、最も有効な治療法は、先に述べた通り眼圧を下げる治療になります。そのために、まずは房水産生を抑える点眼薬や、房水の排出を増やす点眼薬を用います。

 近年次々と新しい緑内障の点眼薬が出てきており、数年前であれば手術の適応となっていた症例も、点眼薬でコントロールできるケースが徐々に増えてきました。また、点眼薬だけでは視野障害の進行を抑えることのできない症例には、レーザー治療や手術が行われます。

 緑内障手術においても、従来の線維柱帯切開術(房水流出を行う線維柱帯という網目状の組織を一部切開して流れやすくします)や、線維柱帯切除術(眼球壁を一部切り取って房水を眼外に流出させるバイパスを作成します)などの手術法に加えて、インプラント手術が近年厚生労働省によって認可されました。インプラント手術とは、ステンレス製の筒やチューブを目に埋め込んで房水を目の外に流出させる手術法で、これにより緑内障手術の適応が広がり、より安全に手術を行える症例も増えてきています。

 失明を防ぐために 

 先述の通り、緑内障はわが国の中途失明原因の第1位です。そして、一度進行してしまうと元に戻すことはできません。しかし早期に発見し、治療を継続することで、生涯見え方に困ることなく過ごせる可能性を格段に高めることができます。40歳を過ぎたらぜひ、定期的に眼科で検診を受けてください。

 いしはら・りえこ 富山中部高、富山医科薬科大医学部卒。岡山大病院、社会保険栗林病院、倉敷成人病センターを経て2012年より現職。日本眼科学会専門医、眼科光線力学療法(PDT)認定医。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2015年09月21日 更新)

タグ: 岡山大学病院

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