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(4)食道がんに対する新しい治療 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科消化器外科学准教授 岡山大病院消化管外科副診療科長 白川靖博

白川靖博准教授

 食道がんに対する標準的治療は、根治切除可能な場合は手術や内視鏡的切除、また切除不能な進行がんに対しては抗がん剤と放射線を組み合わせた治療が行われます。しかしながら、ご高齢の患者さんあるいは重篤な臓器障害を持つ患者さんの場合、手術や抗がん剤といった治療は難しいこともあります。

 そこで、このような標準的治療が難しい患者さんに対しても行える身体への負担が少ない治療法の開発が望まれるところであります。そういった中、岡山大学病院では食道がんに対するテロメライシンを用いた放射線併用ウイルス療法の臨床研究を2013年に開始しました。

 テロメライシンは、岡山大学医学部消化器外科学の研究グループで研究開発された世界初の腫瘍選択的融解ウイルス製剤であります。テロメライシンは、風邪ウイルスの一種であるアデノウイルスを遺伝子改変したものであります。テロメラーゼ活性というがん細胞特有の性質を標的としており、がん細胞の中でのみ増殖してがん細胞を破壊するウイルス製剤です。

 さらに、ヒトの体の中で自立性を持って増殖することによって効果を表すという、これまでの抗がん剤にない作用のしくみを持っています。すなわち、テロメライシンはヒトのがん細胞に感染すると1日で10万~100万倍に増殖し、がん細胞を破壊します。一方、テロメライシンは正常の組織の細胞にもウイルス感染はしますが、ウイルスは増殖しないようにつくられているので、正常組織での細胞の損傷は少ないと考えられているのです。

 岡山大学病院で行っている臨床研究に先立ち、米国においてがん患者に対するテロメライシンの臨床試験が行われていますが、大きな副作用は認められず、ウイルス投与部位において腫瘍が縮小する効果などの有効性が認められました。また、岡山大学消化器外科学の研究グループでは、テロメライシンが放射線治療によるがん細胞のDNA損傷の修復を阻害することで、放射線治療の効果を格段に増強することができるということも、基礎研究で明らかにしています。

 このようなことを背景として、テロメライシンと放射線治療を組み合わせた治療の臨床研究を13年から開始するに至ったのです。これまでに食道がんの患者さん7人に対して治療を行っています。対象となったのは、高齢あるいは臓器障害のために標準的な手術や抗がん剤治療が難しい患者さん、あるいは進行がんで標準的な抗がん剤治療の効果が認められなかった患者さんなどです。7人中5人の患者さんに一定の効果が認められ、いずれの患者さんにも重大な副作用は認められませんでした。

 今後さらに臨床研究が進み、標準的な手術や抗がん剤治療を受けられないような食道がんの患者さんにとって安全で有効な治療法であることが明らかになれば、今後ますます拡大していく高齢化社会において、とても有用な治療になるものと期待されるところであります。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2015年09月21日 更新)

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