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運動器の病気とけが―整形外科の視点から―神経にかかわる頸椎疾患 倉敷中央病院整形外科医長 楠葉晃

楠葉晃医長

 整形外科で扱う頸椎(けいつい)疾患としては骨折や腫瘍や感染症などもありますが、今回は神経にかかわる病気についてお話ししたいと思います。

 頸椎の神経にかかわる病気として、整形外科で扱うことが多いのは神経を物理的に圧迫する病気です。圧迫する原因としては腫瘍などで圧迫されるのではなく、もともとあった構造物が年齢や環境や外傷などによる変化により、神経が圧迫されます。頚椎の構造物として(1)椎体(2)椎弓(3)椎間板(4)後縦靭帯(じんたい)(5)黄色靭帯―などがあります(図1)。頻度の多い病気としては、椎間板により神経が圧迫される椎間板ヘルニア、後縦靭帯により圧迫される後縦靭帯骨化症、骨や黄色靭帯など複合的な要素で圧迫される頸椎症性脊髄症があります。

 症状としては、脊髄症と神経根症があります。脊髄症とは名前の通り脊髄が圧迫されることにより引き起こされるもので、手足のしびれや巧緻機能障害(箸や筆が持ちにくくなる)、歩行障害、排尿障害などの症状が起こります。

 手足のしびれなど比較的症状が軽い場合は薬の使用などの保存療法を行いますが、巧緻機能障害や歩行障害など日常生活に支障が出る場合には手術を勧めています。それに対して、神経根症とは脊髄から上肢に出る神経の枝の圧迫により引き起こされ、後頚部、肩、上肢や肩甲骨付近への痛みが生じたり、中には筋力低下を生じる場合もあります。脊髄症と比べると痛みを訴える方が多く、内服や神経ブロックなどの保存療法が効果的な場合があります。しかし、中には保存療法での効果が少なく、症状も重度な場合には手術を行います。

 治療は保存療法(薬や注射など)と手術を行う方法がありますが、ここでは手術についてお話しします。手術のアプローチとして前方法と後方法があります。また、単純に神経の圧迫を解除する場合と、神経の圧迫の解除と骨の固定が必要となる場合があります。

 前方から手術を行う場合は喉の横を切開し頸椎の前方部分にアプローチし、必要に応じて椎間板、椎体を切除して神経の圧迫を解除します。前方の椎間板や椎体を切除するため、骨盤や下腿(たい)から骨を採取して再建を行います(前方固定術=図2)。

 後方から手術を行う場合は、頸の後ろを縦に切開し、椎弓を単純に切除したり(椎弓切除術)、椎弓を開いて人工骨を移植し、神経の圧迫を解除する場合(椎弓形成術)があります(図3)。骨のぐらつきが強いものや頸椎のアライメントが悪いものなど後方からの手術でも固定が必要となる場合があります。

 いずれの手術を選ぶかについてはさまざまな意見があり、私たちも迷うケースが多くありますが、患者さんの年齢、持病や環境などを考慮に入れて最終的に決定しています。

 症状が重度になると術前の神経のダメージも大きく、手術で神経の圧迫を解除してもその後の回復はよくありません。前述したような症状が強い場合や進行している場合は、手術の必要性が高いと考えます。気になる症状がある方は早めに脊椎の手術を行える病院を受診することをお勧めいたします。


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  倉敷中央病院(086―422―0210)


 くすば・あきら 岡山高、三重大医学部卒。静岡済生会総合病院など経て2009年4月から倉敷中央病院整形外科勤務。日本整形外科学会整形外科専門医、同学会認定脊椎脊髄病医。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2015年09月21日 更新)

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