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(1)心臓の仕事と血圧 岡山西大寺病院副院長 井久保卯

井久保卯副院長

太い血管は心臓の補助ポンプ

 みなさん血圧についてよく知っていると思いますが、実は知らない大切なことがあります。新たな知識を加えることで、理解を深めていきましょう。今回3回のシリーズで心臓のはたらきと血圧、そして動脈硬化について説明していきます。まず、心臓の基本的な仕事をお話しします。

 心臓は全身に血液を送り出す“ポンプ”です。1のように収縮期に心臓の出口(大動脈弁)を開けて血液を押し出し、拡張期に出口を閉めて血液を引き込みます。心臓はこの収縮期―拡張期の繰り返しを1日に約10万回、黙々と規則正しく行っています。

 血圧には二つの数値“上の血圧”と“下の血圧”がありますが、上の血圧は収縮期血圧・最高血圧と同じで、下の血圧は拡張期血圧・最低血圧と同じです。『健診で血圧が150を超えたので病院に行ったら薬が出た』とか『頭がフワフワするから血圧を測ったら90しかなかった』など“血圧”といえば通常“上の血圧”を指します。そして血圧=ポンプの力(心拍出量)×血管の硬さ(末梢(まっしょう)血管抵抗)という関係があります。

 さて、血圧を調節するメカニズムはかなり複雑です。心拍出量と末梢血管抵抗以外にも、循環血液量、自律神経、精神状態、腎臓の機能、複数のホルモンなどさまざまな要素が血圧のコントロールに関わっています。このシリーズでは、加齢に伴う通常の高血圧(専門用語では本態性高血圧症と呼びます)を中心に説明します。加齢に伴ってポンプの力がパワーアップすることはありませんから、今回は「血管が硬くなって血圧が上がる」ことを中心に考えていきます。

 ところで、上の血圧すなわち収縮期血圧は、ポンプが送り出した血流の圧力なのでイメージできますが、拡張期血圧は何を意味しているのでしょうか? そもそも、どうして拡張期に血圧があるのでしょう。もし心臓が図1の井戸のポンプと全く同じでしたら、拡張期には全身に血液を送り出していないので血圧はゼロになるはずです。

 実際、ヒトの心臓のすぐ後ろには太い血管がつながっています。図2のように心臓は収縮期に全身に血液を送り出すと同時に太い血管を押し広げます。拡張期には心臓の出口の弁が閉まり、心臓から全身への血流は途絶えます。しかし、収縮期に広げられた太い血管が元に戻ることで貯留した血液が全身に送られます。このようにして心臓からの拍出のない拡張期にも血液は流れ続けることができるのです。

 そして、この時の血流の圧力が拡張期血圧となります(図3)。ですから、太い血管は心臓の補助ポンプとして働いているといえます。

 太い血管は、心臓のように自分から収縮はしませんが、ばねやゴムのように引っ張られたら元に戻る性質(弾性力)を持っています。このように伸び縮みのできる(弾性力のある)太い血管を弾性型動脈と呼びます。心臓から近い大動脈、肺動脈や主要動脈がそれに当たります。

 実際、心臓が1回の収縮で送り出す血液のうち60%もが太い動脈に貯留され、その血液は拡張期に全身のすみずみに送られます。また、太い血管は心臓の収縮期にはその直径を1・4倍にまで広げるといわれています(図4)。

 以上が、拡張期に血圧が存在するしくみです。次回は上と下の二つの血圧の値から計算される「脈圧」と「平均血圧」について説明します。

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 岡山西大寺病院(086―943―2211)

いくぼ・しげき 岡山朝日高、岡山大医学部卒。岡山赤十字病院、鳥取市立病院、呉共済病院など経て水島第一病院勤務。2002年同副院長。15年4月から現職。日本内科学会認定医、日本医師会認定産業医。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2015年10月05日 更新)

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