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運動器の病気とけが―整形外科の視点から―転ばない話 倉敷中央病院医療技術部門リハビリテーション部技師長 宮﨑庄治

宮﨑庄治技師長

≪転倒の現状≫

 東京消防庁は、転倒は同一面上でバランスを失い倒れて受傷したもの、転落は高低差のある場所から転がり落ち受傷したもの、と定義しています。英語のfallには両方の意味があります。2013年の厚生労働省人口動態統計によると、1年間に転倒転落で7280人が死亡し、交通事故による死亡5971人を上回っています。別の統計では、65歳以上の救急搬送された方のけがの約8割が転倒が原因になっています。

 転倒によるけがでは、打撲やすり傷など比較的軽いものが多いが、約1割の人は骨折に至り、男性より女性が多い傾向にあります。高齢者の転倒で起こりやすい骨折は、脊椎圧迫骨折(背骨)、上腕骨近位部骨折(腕の付け根)、橈(とう)骨遠位端骨折(手首)、大腿骨近位部骨折(太ももの付け根)などがあります(図1)。高齢になるほど転倒しやすくなり、いったん転ぶと大きなけがにつながりやすいといえます。

≪転倒の原因≫

 転倒する原因として、年齢や運動機能、病気、内服薬や飲酒、転倒した経験などの内的要因と、住宅の構造などの外的要因に分けられます。加齢による視力低下やバランス能力の低下、立位・歩行時の姿勢の変化、筋力低下、めまいや認知障害、睡眠薬などの影響に加えて、一度転倒すると転倒への恐怖感がより強まり、転倒を重ねる割合が高くなるといわれています。これら内的要因と、滑りやすい床、暗い照明、通り道の障害物、不適当な履物などの外的要因が重なって転倒に至ることが多いのです。

≪転倒の予防≫

 外的要因の改善方法として、滑り止めマットの使用、階段や廊下の十分な照明、段差の解消、手すりの設置、底の平らな幅広の靴の使用などがポイントになります。内的要因の改善は、基礎疾患の治療、内服薬の調整(かかりつけ医に相談)と合わせて筋力や柔軟性、バランス能力の向上などが有効です。自宅で手軽にできる効果的な運動として、ロコモーショントレーニングがあります(図2、3)。治療中の病気やケガがあるときは、かかりつけ医に相談して始めましょう。

 また、ウオーキングもとても有効です。歩く速さが速いほど転倒する率が低くなることがわかっています。“大股で速く”を意識して、できれば1日8000歩・20分以上のウオーキングがおすすめです。顎を引き、肩の力を抜いて胸を張り、背筋を伸ばし腕を大きく振って大股で歩くフォームが理想的です。転倒を予防して、いつまでも自立した日常生活を送れるように運動の習慣をつけましょう。

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 倉敷中央病院(086―422―0210)

 みやざき・しょうじ 滋賀県立虎姫高、京都大医療技術短期大学部卒。1987年から倉敷中央病院勤務。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2015年10月05日 更新)

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