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(3)網膜剥離 岡山大学病院眼科学教室助教 塩出雄亮

塩出雄亮助教

1網膜剥離とは

 網膜は、目の奥にある神経の膜です。カメラに例えるとフィルムにあたる部分で、光を感じる大切な場所です。この網膜の一部に穴や裂け目ができることがあり、これを網膜裂孔といいます。網膜裂孔ができると、目の中の水分が網膜の下に入り込んでいき網膜が剥がれていきます(図1、2)。これを網膜剥離といいます。

2網膜剥離の症状 

 網膜剥離の起こりはじめには、飛蚊症(虫のようなものが飛んで見える)や光視症(光が当たってないのに当たったように感じる)を自覚することがあります(飛蚊症や光視症には、網膜裂孔や網膜剥離と関連がないこともあります)。

 剥がれた範囲が広がってくると、視界で見えない所が出てきます。網膜の中心部である黄斑まで剥がれると、急激に視力が低下します。

3網膜剥離の治療

 網膜剥離になる前(網膜裂孔の状態)であれば、レーザー治療で治療を行います。まだ剥がれていない部分にレーザーを照射してくっつけ、網膜が剥がれるのを防ぎます。

 いったん網膜が剥離してしまうと、手術が必要になります。剥がれた部分を眼球の外側から治す方法(強膜バックリング手術)と、眼球の中から治す方法(硝子体手術)があります。網膜裂孔の位置や、剥がれている範囲、年齢などにより総合的に判断し、手術方法を選択しています。

 (1)眼球の外側から治す方法(強膜バックリング手術)

 剥離した網膜の部分の外側から眼球壁(強膜)に、細いシリコンのバンドを縫いつける方法です(図3)。若年者や軽症の場合には、こちらの手術を選ぶことが多いです。術後に起こる問題として、眼球がシリコンのバンドで締められるために、近視や乱視が強くなったり、目の動きが悪くなったりすることがあります。

 (2)眼球の内側より治す方法(硝子体手術)

 眼球に小さな孔(あな)を3、4カ所あけて、そこから小さな照明や手術器具を目の中に入れて手術をする方法です(図4)。手術器具の進歩とともに治療成績が向上しており、現在では網膜剥離といえばこの方法を選択することが多いです。目の中の硝子(しょうし)体というゼリー状のものを取り除いた後、裂孔をレーザーで固めて、さらに目の中にガスを注入して網膜を膨らませます。目の中に入れたガスが裂孔を抑えるのが目的ですので、手術後は10日から2週間ほど、下向きか横向きでの安静が必要です。

 網膜剥離は、ボクサーなどの目に衝撃を受ける人だけに起こる特別なものではありません。加齢により眼球内の硝子体の状態が変わってくると、網膜が引っ張られて穴が開きやすくなります。そのため、50代~60代は網膜剥離になりやすい年齢です。

 飛蚊症や光視症といった、比較的初期の段階で受診できればよいのですが、普段、両目で生活していると気づきにくいものです。たまには、片目で見て、左右の差や普段と見え方に変化がないか自分でチェックしてみることも大切です。そして、40代を過ぎたら年に1回は眼科の検診を行い、網膜剥離の早期発見と早期治療に努めるようにするのがよいと思います。

 しおで・ゆうすけ 岡山芳泉高、香川大医学部卒。倉敷中央病院を経て、2012年から岡山大病院。日本眼科学会専門医、眼科PDT認定医。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2015年10月05日 更新)

タグ: 岡山大学病院

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