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(18)大腸がん手術 岡山済生会総合病院 赤在義浩 消化器外科部長 豊富な臨床経験で根治を目指す

赤在義浩消化器外科部長

 ―岡山済生会総合病院の大腸がんの治療実績は。

 赤在 昨年1年間の手術は196例(うち腹腔(ふくくう)鏡手術73例)で、部位別では結腸がん122例、直腸がん74例。中四国で指折りの実績です。これとは別に内視鏡治療が84例あります。私自身は、主に進行した直腸がんの開腹手術を担当します。骨盤の奥深くに浸潤したぼうこうがんや子宮がん、粘膜の下にある筋肉層の細胞が増殖し腫瘍をつくる消化管間質腫瘍(GIST)の切除も行っています。

 ―大腸がんの予防で心掛けることは。

 赤在 肉類やアルコールを控え、野菜を食べること。食物繊維やビタミンのサプリメントはほとんど効果がないと言われています。1日に4、5キロのウオーキングも効果的。糖尿病にかかると発症のリスクが3、4倍程度高くなります。生活習慣病の予防と同じだと考えてよいでしょう。

 ―大腸がんの特徴は。

 赤在 早期発見できればほとんど治癒できます。ただ自覚症状が出ないことが多く、気付いた時には、深く浸潤していたりリンパ節や肝臓、肺などに転移していることも少なくありません。他のがんに比べ遺伝的要因が発症に関係しており、定期検診での便潜血反応はもちろん、家族に既往歴がある人は3~5年おきに内視鏡検査を受けるのを勧めます。

 ―ステージ(進行度)に応じた一般的な治療方法を教えてください。

 赤在 病変が粘膜にとどまり、かつ腫瘍の直径が2センチ未満の早期なら内視鏡で対応できます。肛門から腸管内に内視鏡を挿入し電気メスでがんを切除します。がんが大腸壁の外まで浸潤していたり複数のリンパ節転移の可能性がある場合は開腹手術を選択します。腹腔鏡の手術は、ある程度進行した症例では有効ではありません。手術で周辺のリンパ節を含めて十分に切除することが大切です。手術ができないほど進行した場合は放射線治療や化学療法を行います。

 ―転移が複数見つかった場合はどうしますか。

 赤在 手術を断念し化学療法で延命を図るのが一般的であり標準的治療とされていますが、これでは平均して3年ほど延命を図ることしかできません。私は、困難な症例であっても治療計画をしっかり立てれば根治は不可能ではないという信念を持っています。信念を支えているのは長年の臨床経験です。最初に原発巣を切除し半年程度抗がん剤で転移巣の進行を抑え、次にそこを切除するというふうに、患者さんの負担を考慮しながら手術と化学療法を繰り返すのです。患者さんが求めているのは標準的治療ではなく、最高の治療だと思います。

 ―結腸がんと直腸がんでは手術の難易度が違いますか。

 赤在 結腸がんは腸管とリンパ節を切除します。排せつ機能に障害が出る恐れはほとんどありません。一方、直腸がんは、狭い骨盤内の深部にある上、周囲にはぼうこうや子宮、自律神経、肛門括約筋などがあり、切除には神経を使います。腸管をつなぎ合わせた所がうまくつながらず便が漏れる縫合不全は結腸がんでは1%程度ですが、直腸がんでは10%未満が熟練の目安とされています。私は5%少々です。

 ―難易度の高い直腸がんの手術方法は。

 赤在 おなかからメスを入れ直腸がんと周囲のリンパ節を十分に切除して、残った肛門と結腸を縫い合わせる方法が主です。おなかから縫い合わせるのが難しいときには肛門から縫い合わせることもあります。肛門を締める筋肉の切除量が多く、肛門機能が残らないときは人工肛門にします。直腸は尿道や前立腺、ぼうこうに近く、大きながんでは尿路系を巻き込んでしまいます。がんと尿路系の臓器を一緒に切除するのですが、人工肛門と人工ぼうこうが必要となります。骨盤内臓全摘術と言い、30数例行いました。術後の成績は良いです。

 ―生存率はどの程度向上していますか。

 赤在 当院の術後の追跡調査によると、1983~92年と2003~12年に手術を行った患者さんの10年生存率は、転移がなかった場合は82%から94%、リンパ節転移があった場合は56%から76%、肺など遠隔への転移があった場合は14%から35%と、より進行したがんほど成績が上がっていることが分かりました。CT、MRI、PETといった画像診断の性能が向上し、微細ながんを発見しやすくなったこと、それに伴い綿密な治療計画を立てやすくなったためでしょう。

 ―直腸がんでは肛門機能を温存できるかどうかがQOL(生活の質)を左右します。

 赤在 がんの進行度と肛門から病巣までの距離、再発リスクを勘案して温存が可能かどうかを決めます。肛門を残しても一日に何度も排便しなくてはいけないようになれば、仕事や日常生活に支障を来します。肛門温存と切除のどちらが不自由がないかをてんびんにかけて決断します。肛門を締める筋肉を部分切除して肛門を温存した場合、術後、排便に慣れるのに1~2年かかります。人工肛門は肌のお手入れが大切で、当院は、看護師によるストーマ外来を予約制で開設しています。

 あかざい・よしひろ 兵庫県立豊岡高、岡山大医学部卒。同大第1外科入局後、1985年に岡山済生会総合病院へ。2年間、府中市の民間病院に勤務し、93年に岡山済生会総合病院に戻り、主任医長、診療部長を歴任。2011年から消化器外科部長。岡山大医学部臨床教授など務める。日本外科学会専門医。59歳。

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 岡山済生会総合病院(岡山市北区伊福町1の17の18、(電)086―252―2211)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2015年10月19日 更新)

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