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(4)白内障手術のすすめ 岡山大病院眼科学教室助教 濵﨑一郎

濵﨑一郎助教

 私たちの目には、遠くや近くにピントを合わせる調節機能があります。その役割を果たしているのが「水晶体」です。カメラに例えるとレンズと同じ働きがあります。その水晶体が濁るのが「白内障」という病気です=

 普通は年齢を重ねるごとに少しずつ濁りが強くなってきます。そして、だんだんと見え方がぼやけてきて視力が落ちてきます。その他にも明るいところでまぶしく感じたり、テレビや信号が見にくくなったり、細かな濃淡がわからなくなったり、片目で文字が二重に見えたりするのも白内障の症状です。場合によっては斜視になったり、3D映像(立体)が見えにくくなったりもします。白内障がかなり進行すれば、明暗しかわからない状態になりますが、治療できないわけではありません。しかし、白内障は進行すればするほど、その治療のための手術が難しくなるので、少し早めに手術をするほうが良いでしょう。

 手術は2ミリ程度の切開創から超音波が出る特殊な吸引機を目の中に入れて、水晶体の濁っている部分を吸い出します。水晶体の外側の嚢(のう)だけを残し、人工の眼内レンズを専用の筒状の器具に入れて折り曲げてその中に入れます。レンズはそこで開いて固定されます。

 眼内レンズは通常、一生入れたままで良く、普通は交換の必要はありません。白内障手術はこの数年で劇的に進化し、傷も小さく、痛みもなく、昔に比べ短時間でできるようになりました。気軽に受けられる手術になったといえるでしょう。ただ、目の手術が怖いので他の治療法はないのかという方もおられると思います。白内障の目薬がありますが、残念ながら濁りを消す効果は無く、一般的には予防効果もあまりないといわれています。

 ところで、白内障手術は濁りを取るだけではありません。眼鏡と同じように眼内レンズの度数を変えることで、近視や遠視が強い人はそれを軽くすることができます。また、一部の方には眼圧を下げる効果もあります。そのような方は白内障があまり進行していなくても、手術をする相談をしても良いかもしれません。その他、目の奥の病気、例えば糖尿病網膜症や加齢黄斑変性症などの方も早めに手術することをお勧めします。白内障で見えにくくなっているのは自分だけではなく、目の奥を診察する医師も同じように目の奥が見えにくくなっているからです。

 また、白内障手術は良いことばかりではありません。現在の眼内レンズは水晶体の持つ調節機能はありません。手術の後は、遠方や近方、その中間などの距離に対応した眼鏡が必要になることがあります。ただ、実際は白内障手術をするころには水晶体の調節機能はほとんど失われています。これを一般的に「老眼」と呼びます。したがって、そのことで手術の後に不自由を感じることはあまりないでしょう。

 視覚は知覚の中でも特に重要と考えられています。ほとんど見えない状態なのに怖くて手術をしない方もたまにいらっしゃいますが、我慢をせずに手術を受けてみてください。いままで見えなくて介助が必要だった方が、自分自身でできるようになり、「世界が変わった!」と喜んでいるのです。もし手術を希望される場合は、近くの眼科でよくご相談を。

 はまさき・いちろう 岡山大大学院医歯薬学総合研究科卒。香川県立中央病院、福山市民病院を経てJohns Hopkins University Research Fellowとして米国留学、帰国後、岡山大病院勤務。医学博士。日本眼科学会専門医・指導医。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2015年10月19日 更新)

タグ: 岡山大学病院

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