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脳卒中治療の“地域格差”是正 岡山県内の病院が連携強化へ

脳卒中の遠隔医療システムについて説明する井上准教授(左)

 脳の血管が詰まったり、破れたりして起こる脳卒中の治療で、岡山県内の病院が連携を強化している。急性期に専門的な診療を24時間行える病院は県南に集中しており、診断や治療の“地域格差”を是正するのが狙いだ。県南の専門医が昼夜を問わず相談に応じるシステムを構築したり、患者が発生した場合、高度な治療を行える医師が県北へ急行したりと、関係者は知恵を絞っている。

 一般に、脳卒中と疑われる症状が認められた場合、頭部の画像撮影や心臓の検査などを行って治療方針を決定。薬の投与といった内科的な処置を進めるなど、一刻も早い診断と治療が重要とされる。

 しかし、専門性の高い病院や医師は県南部に集まっているのが現状だ。岡山県保健医療計画によると、脳卒中の急性期治療に24時間対応できる医療機関は県南の12施設に対し、県北は2施設。カテーテル器具を使って血栓を取り除く、より高度な治療ができる日本脳神経血管内治療学会認定の専門医は県南の都市部に集中し、県北などは常勤医がいないという。

患者にメリット 

 そんな中、川崎医科大付属川崎病院(岡山市北区中山下)脳卒中科は県北の医療機関と遠隔医療システムの構築を模索。連携を強化して治療に当たろうと考えている。

 磁気共鳴画像装置(MRI)やコンピューター断層撮影装置(CT)で撮った画像を共有して、専門医が的確な診断や治療のための助言を行い、必要があれば、川崎病院で患者を受け入れる。脳卒中科の井上剛准教授が県北部と県境に近い地域の医療機関を訪ね、遠隔医療システムの運用方法や利点などを説明。さとう記念病院(岡山県勝央町黒土)の佐藤通洋病院長は「専門医と連携できれば治療の質を上げられる。患者にとってメリットが大きい」と期待する。

 現在、新見市の3病院で運用が始まっており、さとう記念病院のほか、真庭、高梁市の2病院が導入を検討中。新見市ではこれまでに2件の照会があり、1人は川崎病院に救急搬送した。

 岡山大病院(岡山市北区鹿田町)は昨春から、津山中央病院(津山市川崎)にカテーテルを使った高度な治療が必要な患者が運ばれた際、岡山市から専門医1、2人が車で駆け付ける「移動式治療」を始めた。

 ドクターヘリで患者を搬送してくるケースもあるが「患者を移動させるリスクを検討した」(岡山大病院)結果、医師が出向く方法を取り入れたという。「脳卒中の治療法は急速に進歩しているが、その治療をできる医師が不足しているのが現状」と同病院IVRセンターの杉生憲志准教授は指摘する。

スムーズな搬送 

 県内で2013年、脳卒中で入院した人は延べ8038人とここ数年横ばい。このうち、最も多いのが脳梗塞(5209人)で全体の65%を占める。治療では血栓を溶かす薬「t―PA」の点滴投与が最初に検討されるが、発症から4時間半を過ぎると脳出血のリスクが高まるため、投与の対象は全患者の3~5%程度にとどまる。

 県内で「t―PA」療法など専門的な治療が24時間できる医療機関は14施設。しかし、13年の治療実績をみると、実際にt―PA投与した患者が1%未満の医療機関も複数ある。

 川崎病院の井上准教授は「遠隔医療システムだけでなく、患者のスムーズな救急搬送の手段を検討することも必要」とした上で「県内どこで倒れても同じ治療が受けられる体制を整えたい」と話している。

 脳卒中 脳の血管が詰まる脳梗塞(7割)、血管が破れる脳出血(2割)、動脈瘤(りゅう)が破れるくも膜下出血(1割)に大別される。関連学会などの推計によると、患者数は全国で約150万人、毎年約25万人が新たに発症している。寝たきりの原因の30~40%。今後高齢化が進むとさらに患者が増えると予想される。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2015年10月26日 更新)

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