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生涯現役社会考えよう 健康生きがい学会京極会長に聞く

健康生きがい学会について語る京極会長

 高齢者の新しい生き方を考える「健康生きがい学会」の第6回大会が、21日から2日間の日程で、倉敷市松島の川崎医療福祉大で開かれる。先ごろ山陽新聞社を訪れた同学会の京極高宣会長に、学会の活動や岡山県内で初となる今回の大会について聞いた。

 ―まず健康生きがい学会について教えてほしい。

 京極 2010年12月の第1回大会開催をもって発足と位置づけている。高齢者が健康に、かつ生きがいを持って日々暮らしていくために、どうしていけばいいのか。福祉、医療だけでなく文化、スポーツなど幅広い分野の人々が集い、学際的に知恵を出し合うための組織だ。

 ―活動としてはどのようなことを。

 京極 大会の形で、学会を年1回開催するのが最大の活動だ。毎年の大会では各種講演やシンポジウム、テーマごとの分科会などを通じ、高齢者の未来に向け必要な課題を考え、また論じ合っている。

 ―京極会長は日本社会事業大学の学長や国立社会保障・人口問題研究所の所長を長く務め、長年にわたり日本の高齢者施策に深く関わってきた。

 京極 大学から出向の形で旧厚生省にいた1986年、日本で「国際社会福祉会議」が開かれ、私も奔走した。海外からも約1300人が参加。この会議を通じて日本の社会福祉、高齢者施策の遅れを各方面が痛感し、見直しの契機となった。例えばこのすぐ後に社会福祉士や介護福祉士の国家資格ができ、やがて介護保険制度も始まった。

 ―2000年の介護保険開始は高齢者施策の転機だった。

 京極 介護保険や医療保険の充実で、言ってみれば「健康を害した人」への対応は進んだ。介護保険も今やすっかり定着したが、私には「少し定着しすぎた」ように思える。

 ―というと?

 京極 年を取って制度を活用することは大いに結構だが、充実した制度に頼り切る風潮が生まれてきたように思う。

 ―なるほど。真意は制度を頼りに漫然と日を送るのでなく、高齢者自らが健康で生きがいある暮らしを求めるべきということか。年金の先行きも心細いし。

 京極 医療、介護に年金…。健康な高齢者が増えていかなければ国の財政ももたない。団塊の世代が後期高齢者になる2025年問題がいわれるが、例えば認知症は85歳以降、発症が急激に増える。だから実は「2035年」が問題だ。そうしたことを踏まえれば高齢者が自ら、健康で生きがいある長寿を目指して努力してほしい。

 ―会長は「65~74歳は熟年後期」と提唱している。

 京極 そう。いわゆる前期高齢者だが、彼らはまだ活力に満ちている。社会として、彼らの力をより生かす道を探る必要がある。

 ―実際、この年代ではまだ多くの人が働いている。

 京極 確かにそうだが、まだ足りないと思う。「サラリーマンが現役時代に培った知識や技術を定年後に生かせ」というが、その考え方では今後の超高齢化社会は乗り切れないのでは。私が思うのは職業教育の重要性。サラリーマンが、定年後に、現役時とは全く違う知識や技術を新たに身につけ、現役時とは全く違う分野の仕事でもう一度人生の道を切り開いていく。そんな社会になればいいと思う。欧州などに比べ職業教育の位置づけが低い日本の現状も問題だ。

 ―定年後、ボランティア活動などに情熱を燃やす人もいる。

 京極 ボランティアや趣味、あるいは学術・学問に情熱を傾けるのももちろん意義あること。多様な生き方の一つとして、今以上に“現役”が増えればいいと思っている。

 ―今回の倉敷の大会でもそうした問題が話し合われるのか。

 京極 テーマは「生涯現役と健康生きがいづくり」。辺見聡・厚生労働省老健局振興課長に基調講演をしてもらい、私も特別記念講演で前向きな老後の生き方について話す。

 ―初日の21日には8分科会がある。

 京極 「健康生きがいづくり専門職の役割」「子ども・若者の生きがい支援」「長寿と笑い」「老後生活とロボットの活用」など多彩だ。健康生きがいづくりアドバイザーの役割や笑いの効用について議論する。また、ペットや見守り役、あるいは介護の担い手としてロボットへの期待は大きい。22日は自由発表や学識者の鼎(てい)談を予定している。

 ―大会に向けて、抱負を一言。

 京極 岡山県には歴史と伝統があり、一方で新しいことに挑戦する県民性があるように思う。医療、福祉の蓄積もある。新しい時代の高齢者の在り方、生き方を切り開く大会になってほしい。



 メモ 大会実行委員長は小池将文・川崎医療短大学長。参加費は会員千円、一般2千円、大学院生500円、学生無料。誰でも学会員になれ、当日会場で会員登録も受け付ける。問い合わせは一般財団法人健康・生きがい開発財団内の大会担当(03―3818―1451)。

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2015年11月02日 更新)

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