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がんのリンパ節 光らすウイルス 岡山大・藤原助教授ら開発 クラゲ遺伝子活用 転移部分の発見容易に

テロメスキャンを注射したマウス。がんの原発巣(右)と転移したリンパ節(中央)が光った

藤原俊義助教授

 岡山大病院(岡山市鹿田町)の遺伝子・細胞治療センターの藤原俊義助教授(消化器・腫瘍(しゅよう)外科学)らのグループは、クラゲの発光遺伝子を組み込み、がんが転移したリンパ節だけを光らせる無害の新ウイルスを開発した。切除範囲を正確に知る手掛かりとなるもので、手術精度の大幅な向上と患者負担の軽減につながると期待される。1日付米医学誌ネイチャー・メディシン(電子版)で発表した。

 がん細胞はリンパ液の流れに乗ってリンパ節に転移するため、術前の画像検査や、手術中に医師が見たり触って転移部分を特定している。

 ただ、小さな転移は見つけにくく、転移の可能性のある周囲のリンパ節を正常部分も含めすべて切除する「郭清(かくせい)」が一般的に行われている。だが、患者にとっては合併症など身体的負担が大きく、切除する範囲をどう抑えるかが課題だった。

 藤原助教授は、同大大学院医歯薬学総合研究科の田中紀章教授らとのこれまでの研究で、アデノウイルス(風邪ウイルスの一種)と、細胞ががん化したときに活性化する遺伝子テロメラーゼの一部を組み合わせ、がん細胞だけを死滅させるウイルスをつくり、動物実験で効果を確認している。このウイルスにオワンクラゲの発光遺伝子を結合させることで、新ウイルス「テロメスキャン」を開発した。

 テロメスキャンは、手術前に腫瘍に注射すると、数日後にがん本体(原発巣)と転移したリンパ節で増殖。特殊なフィルターや高感度カメラを通して患部を見ると、がん細胞が黄緑色に光る。

 直腸がんを発症させたマウス七匹に注射した実験では、計十三カ所ある数ミリのリンパ節転移のうち、十二カ所を特定できた。テロメラーゼは胃、食道がんなど多くのがん細胞に反応するため、ほぼすべての手術に適用可能という。今後、安全性の確認やより感度の高い検査機器の開発を進め、ヒト臨床試験の実施を目指す。

 藤原助教授は「がん手術で最も難しいのはリンパ節部分だが、新ウイルスを使うと切除は必要最小限に抑えられる。転移は九割以上の確率で特定できており、将来的に実用化は十分可能」としている。


術法変える可能性

 消化器のがん手術を数多く手掛ける嶋田裕京都大講師の話 従来の術法を大きく変える可能性を持つ研究成果で、患者にとって朗報だ。ウイルスの安全性など検証は必要だが、臨床応用に一歩近づいたといえる。


ズーム

 リンパ節 免疫組織の一つ。体内には栄養分や免疫物質を隅々まで届けるリンパ液が流れるリンパ管が縦横に走り、その中継点としてリンパ節がある。空豆状で、その数は成人で300~600個。液の中を流れる異物などをろ過する働きがある。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2006年10月02日 更新)

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