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(6)糖尿病網膜症 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科眼科助教 木村修平

 糖尿病網膜症は、糖尿病の3大合併症の一つで、高血糖状態が続くことで網膜の血管に障害を引き起こす病気です。進行すると、出血したり(網膜出血、硝子(しょうし)体出血)、網膜がむくんできたり(黄斑浮腫)、網膜が剥がれてきたり(網膜剥離)、眼圧が上がって目が痛くなったり(血管新生緑内障)します。日本においては、緑内障に続き2番目に多い失明の原因疾患です。

 網膜は私たちが見た映像が投影され、その情報を脳に送る重要な役割を担っている組織で、例えるならカメラの中のフィルムのようなものです。糖尿病網膜症では、その網膜が傷んでしまいますので、症状として視力低下や物がゆがんで見えたり、ごみのような物が見えたり(飛蚊症)、さまざま見え方の不調が出てきます。しかし、かなり進行するまで自覚症状がないことが多く、気付いた時には手術加療が必要になっていた、という方も多くおられます。自分で病態を判断することができない病気ですので、糖尿病と診断された方は、早めに一度、眼科の受診をすることをお勧めします。

 糖尿病網膜症の治療は、すべての病期を通じて血糖値をコントロールする治療(内科的治療)が基本となります。その上で、病状に合わせて眼科的な治療を行います。初期(単純網膜症)は内科的な治療をしながら経過をみますが、中期(前増殖糖尿病網膜症)では、網膜光凝固術や、硝子体注射、後期(増殖糖尿病網膜症)では、中期加療に加えて、手術加療が必要となることが多いです。

 最近の糖尿病網膜症の検査、治療における進歩は目覚ましいものがあります。検査では、眼底のむくみを100分の1mm以下の精度で検出する機械の開発(光干渉断層計)、今まで10枚近くの写真を重ね合わせて撮っていた眼底写真を、広角で一度に撮像できるカメラの開発などが挙げられます(広角眼底撮影)。治療では、網膜のむくみや悪い血管(新生血管)を軽減する硝子体注射薬の開発、痛みが少なく、短時間で行えるレーザー機械の開発、また手術時に出血や膜を処理する機械の改良などが行われ、より低浸襲で効果的な治療が可能となっています。

 糖尿病の患者さんに、「何に気をつけたら良いですか?」という質問をよくいただきます。この質問については、(1)内科と眼科の定期受診の継続と、(2)1日1回の片眼での見え方チェックをするようお伝えしています。(1)については、糖尿病の罹(り)病期間が長く、血糖コントロールが悪い方が網膜症を発症しやすく重症化しやすいのですが、罹病期間が短く、血糖値が落ち着いていても網膜症を発症することがあるからです。ですから、糖尿病の方は落ち着いていても年に1、2度は眼科受診をすることをおすすめします。

 (2)については、普段両眼(め)で見ているとなかなか片眼の視力低下に気づかないことが多いからです。朝起きた時や顔を洗った時など、ほんの数秒でかまいませんから、片眼を閉じて見え方を確認してください。そうすることで、病態の変化に早めに気づくことができます。

 現在、糖尿病網膜症は、診断が簡便かつ正確に行われるようになり、レーザーや硝子体注射、手術機械の進歩により、しっかり受診して治療を受けられれば、失明に至るケースは減少しています。かかりつけの先生と協力して、病気への理解を深め、より良い治療が行えると良いと思います。

 きむら・しゅうへい 広島大付属福山高、岡山大医学部卒。倉敷中央病院、岡山大病院、倉敷成人病センター、姫路赤十字病院を経て、2012年から現職。医学博士。日本眼科学会専門医・指導医、眼科PDT認定医。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2015年11月16日 更新)

タグ: 糖尿病岡山大学病院

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