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転倒は「命の黄色信号」 笠岡で武藤日体大総合研究所長講演

転倒予防についてわかりやすく話す武藤日体大総合研究所長

 笠岡市保健センターで10月末、「福祉を考える講演会」(社会福祉法人天神会主催)が開かれ、武藤芳照・日体大総合研究所長が「転ばぬ先の杖(つえ)と知恵~高齢者の転倒・骨折・寝たきりを防ぐために~」の題で話した。医師として早くから転倒予防の必要性に着目し、現在日本転倒予防学会理事長を務める武藤氏の講演要旨をまとめた。

 私は学生に自筆で答案を書くよう求めている。今の学生はスマホやパソコンに慣れ、漢字が書けない。みなさんも、例えば昔ほどには電話番号を記憶していないだろう。頭も体も、使わなければ使えなくなる。筋肉も骨も使わなければだめになる。それが高じると転倒、骨折し、寝たきり、要介護になって、場合によっては死につながる。

 現在、高齢者の不慮の死の原因の1位は窒息、2位が転倒・転落だ。ちなみに交通事故死者は減少が続き、今は年間約6千人(厚生労働省統計)。これに対し転倒死は年間約7千人で、交通事故死者より多い。交通死が減ったのは、社会全体で対策に取り組んだからだ。転倒死も社会全体で取り組めば減らしていける。

 日本の高齢化率は26・7%で4人に1人が高齢者。笠岡市は34%だ。今の日本は若い世代3人で高齢者1人を支える騎馬戦型だが将来は肩車型、おんぶ型になる。PPK(ピンピンコロリ)、「棺おけまで歩いて行こう」を目指そう。

 転倒は「命の黄色信号」だ。「隣のおじいちゃん、転んでから大変だったみたいね」というが、違う。転ぶくらい体が弱り、弱ったから転んだ。転んでけがをする。けがをすると余計に体の状態が悪くなる。芸能界でも松尾和子さん、谷啓さんらが転んだ後、亡くなった。

 転倒の要因は三つある。年齢、病気(薬)と運動不足。ある高齢女性は16種類の薬を飲んでいた。重複分などを削り8種類にすると「体の調子が良くなった」と言った。一つ一つの薬は体に良いが、たくさん飲めば体に負担がかかる。結果的に体にひずみがきて、転びやすくなる。薬が5種類以上だと転倒のリスクが高まるとの報告がある。薬の種類や量が増える時は要注意。薬剤師や主治医に、実際に見せて相談すること。薬を逆から読むとリスク。良い薬にもマイナス面はある。

 過去1年間に転んだことがある人が次の1年に転ぶリスクは5倍という。覚えのある人は注意して。転倒予防川柳に「コケるのは ギャグだけにして お父さん」というのがある。言葉を定義すると、滑ったりつまずくのが転倒、階段などから体の一部が接しながら落ちるのが転落、体がどこにも触れずに落ちるのが墜落だ。

 みなさん森光子さんの舞台「放浪記」をご存じと思う。森さんは高齢になって“でんぐり返し”を封じた。屈曲・圧迫により舞台で圧迫骨折するリスクが高まったからだ。

 ◇ 

 転ばないための「五つの習慣」。一つ目は「頑張らない運動で体を動かそう」。普段の暮らしの中で体を動かすこと。掃除とか新聞を取ってくるとか、小さな積み重ねが大事。ごみ出しは分別で頭も使うし、良い。スポーツは無理をしないよう注意してほしい。

 2番目は「日光を浴びよう」。日光を浴びるとビタミンDが作られる。ビタミンDは骨を元気にし、転倒を予防する効果がある。一緒に「ぬかづけ」について話す。ぬれている所、階段・段差、片付けていない所では転倒の危険がある。

 3番目は「無理なく楽しいエクササイズを続けよう」。舞台でやってもらおう。猫が背を伸ばすポーズ、駆けっこのスタートのポーズ。かかと立ちやつま先立ち。腰掛けてももの上げ下ろし。そのまま足で文字を書く。

 転倒予防にはバランス訓練が大切だ。片足立ちを意識すること。歩行は片足立ちの連続技で、階段の昇降も基本的に片足立ち。「またぐ」ことも同じ。これらがきちんとできれば転倒を防ぐ力があることを示している。

 4番目は「足の裏の感性を磨こう」。なるべく鼻緒もの、ぞうりや下駄をはくこと。転倒予防川柳に「消えていく 足の感覚 妻の愛」というのがある。

 5番目は「もっとこまめに水を飲もう」。水は生命の源。水不足は脳梗塞や心筋梗塞などを招く。アルコールには利尿作用があり、飲んだビールより1割増しの尿が出る。ゴルフ場で昼にビールを飲み、プレー後にサウナ。脱水状況に陥り、更衣室で脳梗塞―という人がいる。夜中に足がつるのは水不足のサイン。水分補給を。昔の旅館では枕元に水差しがあり「宝水」と言った。優れた養生訓だ。薬を飲む時も、きちんと水を飲むよう心がけたい。

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 転倒予防教室で「運動したり注意することで、生きる上で希望と自信がわいてきた」との感想を聞いた。アリストテレスは「生きていることは動いていること」と言った。体が動けば心が動く。心が動けば体が動く。これを肝に銘じ、健康で実りある日々を過ごしてほしい。


※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2015年11月16日 更新)

タグ: 健康高齢者

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