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(19)狭窄症のカテーテル治療 心臓病センター榊原病院 山本桂三副院長

山本桂三副院長

全身の動脈硬化をチェック

 ―心疾患の代表的な病気である心筋梗塞と狭心症の原因や発症割合は。

 山本 動脈硬化で、血管に脂質(コレステロール)や血の塊が詰まることが原因です。血管が狭くなり血流が悪化して胸が痛んだり息苦しくなるのが狭心症。さらに悪化して完全に動脈が詰まって心筋が壊死(えし)するのが心筋梗塞です。血管の詰まりはじわじわ進むこともありますが、血管内の50%程度の狭窄(きょうさく)がある日一気に進行し心筋梗塞に至ることもあります。心疾患はがんに続いて日本人の死亡原因の2位です。中でも心筋梗塞はこの30年間で4倍に増えており、発症者の3割余りは糖尿病患者です。食生活の欧米化により、30、40代の罹患(りかん)が増えています。

 ―外科手術とカテーテル治療の選択基準、治療実績を教えてください。

 山本 世界的なガイドラインでは、血管の根元である主幹部が50%以上細くなっていたり、枝分かれした冠動脈の複数に病変がある場合は手術が第一選択となります。カテーテル治療と手術の割合は10対3くらいでカテーテルが多いです。当院の2014年の冠動脈カテーテル治療は1117例。全国第7位の症例数です。

 ―カテーテル治療の方法は。

 山本 カテーテルは、手首か足の付け根から挿入しますが、通常は体への負担が軽い手首から行います。ただ、手首の血管はやや細いので、太いカテーテルを入れる場合や、著しく心機能が低下していて補助循環装置を用いる場合などは足の付け根から挿入します。カテーテルを冠動脈の狭窄部分に到達させ、バルーンで血管を広げ血流を再開させた上でステントと呼ばれる筒状の金網を血管内に置きます。通常の金属ステントでは、数カ月以内にステント周囲の細胞が盛り上がり再狭窄を起こす可能性が15~30%近くあるため、現在は、再狭窄を防ぐ薬を金属に塗り込んだ薬剤溶出型ステントが主流です。

 ―全てのステントが薬剤溶出型なのでしょうか。

 山本 実は今でも1、2割は通常のステントを使います。早期から血管壁と一体化する通常型に比べ、薬剤溶出型は血管内で金属がむき出しの状態が長期間続き、金属に血液がこびりつき詰まりやすくなります。それを防ぐために血液をさらさらにする薬を長期間飲み続けなければならないのですが、胃潰瘍があったり、がんなどの大きな手術を控えた人などは出血のリスクが上がるため、この薬を飲めないのです。

 ―ステント留置はあらゆる症例で有効なのでしょうか。

 山本 血管内に血の塊がぎっしり詰まった重篤なケースではエキシマレーザーという治療を行います。一般的なステント留置では砕けた血の塊が冠動脈の奥に流れ込み、新たな目詰まりを起こす恐れがありますが、エキシマレーザーというレーザー光の一種を照射すると病変を蒸散させることができるのです。また、石灰化して石のように固くなった病変に対しては、ロータブレーターというドリルで削ります。両方を行える施設は中四国では数施設しかありません。当院では、エキシマレーザーは2012年から開始し現在までに94例、ロータブレーターは1999年にスタートし465例の実績があります。

 ―カテーテル治療の合併症の恐れは。

 山本 胸の辺りの血管に動脈硬化があって血液や脂質が付着していると、カテーテルを通過させるときにそれらがはがれて脳に詰まり脳梗塞を起こす恐れがゼロではありません。もちろんそうならないよう細心の注意を払っています。

 ―心臓だけでなく、頸(けい)動脈や腎動脈などあらゆる狭窄症の治療を行っているそうですね。

 山本 鎖骨下動脈、上腸間膜動脈、腸骨動脈、大腿(だいたい)動脈などにもステント留置をします。特に、頸動脈狭窄症は脳梗塞や失明といった重篤なトラブルにつながる恐れがあるため、日本では一般的には脳神経外科で行われています。血の塊のかすが脳血管に流れ目詰まりを起こさないよう、病変の上部にフィルターを通し、かすをそこで回収しています。また、心筋梗塞や狭心症の人は足の血管も狭窄症を起こしているケースが多く、心疾患で当院を受診された方はほぼ全員、足のチェックをし、早期発見につなげています。脳、心臓、腎臓、下肢の疾患は密接に関連しています。全身の動脈硬化をチェック、管理して、外科と連携して総合的にあらゆる狭窄症を治療できるのが当院の特長です。

 ―心疾患、特に心筋梗塞の治療は時間との闘いになります。

 山本 夜間や日曜祝日も循環器内科医2人と心臓血管外科医1人、医療スタッフらが院内当直しており、連携してすぐに緊急手術に対応できます。急性心筋梗塞の死亡率は一般病院で10%、専門医がいる病院で5%ほどですが、当院はわずか1・8%です。学会の認定を受けた循環器専門医が16人もおり、狭心症、不整脈、心不全、弁膜症など全ての分野に対応できるのが強みです。昨年からは最新の弁膜症治療である「経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI)」も開始しました。

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 心臓病センター榊原病院(岡山市北区中井町2の5の1、086―225―7111)

 やまもと・けいぞう 広島大付属福山高、岡山大医学部卒。同第1内科入局後、香川県立中央病院、福山市民病院などを経て、1998年から心臓病センター榊原病院に勤務。循環器内科主任部長などを務め、2008年から副院長。日本循環器学会専門医、日本脈管学会専門医、日本心血管インターベンション治療学会指導医、日本血管外科学会血管内治療医、頸動脈ステント指導医。医学博士。51歳。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2015年11月16日 更新)

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