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愛媛・臓器売買 移植に悪印象懸念 岡山県内医師 「患者との信頼」前提

県内の病院での生体腎移植手術。愛媛の臓器売買事件は、続柄確認の在り方やドナー不足を浮き彫りにした

 愛媛県宇和島市の生体腎移植をめぐる臓器売買事件は、第三者が「患者の義妹」と偽り腎臓を提供、金品の授受が行われたとされる前代未聞の出来事。生体移植の原則である「近親者間」をどう確認するかという問題や、国内での臓器提供者(ドナー)不足が浮き彫りになった。県内の関係者からは「善意で成り立つ移植にブレーキがかかりはしないか」と懸念する声も聞かれる。

 日本移植学会の指針では、生体移植はドナーを原則近親者に制限。第三者の場合は、金品が絡む可能性を排除するため、病院の倫理委員会が審議することを求めている。しかし続柄を確認する方法は示されておらず、愛媛の事件では、すり抜けを許した。

 県内の腎移植の拠点的施設である国立病院機構岡山医療センター(岡山市田益)は、患者側との話による確認、保険証によるドナーの本人確認などは実施しているものの、戸籍謄本などでの続柄確認は行っていない。

 約二百例を手掛けた田中信一郎外科医長は「医療は、患者側と医師の信頼関係が大前提。戸籍謄本まで使って確認する必要があるだろうか」と困惑。同センターではこれまで、倫理委の審議が必要な第三者との移植は行っていないという。今以上に確認方法を強化する予定はないが、今後の日本移植学会の方針に従うとしている。

 今回の事件は、仲介役の女性が複数の身内に提供を頼み、断られた末の犯行とされる。背景として、脳死後や心停止後の腎提供者の不足が指摘されている。

 県内でも状況は同じだ。県臓器バンクによると、重い腎臓病で移植を待つ腎移植登録者は百八十人前後。ところが臓器移植法が施行された一九九七年以降、脳死腎移植はゼロ、心停止後の腎移植は年平均三人程度にすぎない。

 角膜とともに腎臓は、遺族の同意だけで心停止後の移植が認められているが「生前の本人同意が必要な脳死移植と混同され、脳死同様、心停止後のドナーも現れにくい状況」(県臓器バンク)になっている。

 絶対的なドナー不足のもと、国内では海外で腎移植を受ける「渡航移植」が中国やフィリピン、インドを中心に増加。貧困層からの提供もあると言われ、倫理的な課題が付きまとっている。

 岡山大大学院医歯薬学総合研究科の粟屋剛教授(生命倫理学)は「医療技術の進歩に伴い人体に金銭的価値が生まれている」と指摘。県腎臓病協議会の橋本則夫理事長は「『腎移植は金銭が絡むのではないか』との悪印象を市民が抱きかねず、移植推進を図る上でマイナス」と心配する。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2006年10月12日 更新)

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