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進むがん化学療法 岡山大病院・瀧川奈義夫講師に聞く 放射線と併用、切除不能でも治癒へ  副作用、制吐剤で軽減

瀧川奈義夫講師

 がん治療で手術、放射線療法と並ぶ柱の一つで、特に進歩が著しいとされるのが抗がん剤による化学療法。そのエキスパートとして、日本臨床腫瘍(しゅよう)学会認定の「がん薬物療法専門医」が本年度、初めて誕生した。ただ、抗がん剤は副作用のイメージが強く、怖いと感じる人も多い。専門医の一人、岡山大病院(岡山市鹿田町)の瀧川奈義夫講師(呼吸器内科)に現状を聞いた。

 化学療法は抗がん剤を注射や点滴、経口で投与し、がん細胞を破壊する治療。今では白血病や悪性リンパ腫、精巣腫瘍、卵巣がんなどは薬で治癒可能とされ、完治は難しくても延命を図れるがんも増えてきた。

 「放射線療法との併用や分子標的治療薬の登場など進歩が著しい。一、二年ごとに治療のスタンダードが変わり、医師も勉強を怠るとついていけない」。瀧川講師は近年の化学療法をこう語る。

 分子標的治療薬はがん細胞の分子レベルの特徴を標的に攻撃する。がん細胞と正常細胞を区別する力が乏しい従来の抗がん剤より副作用が軽いとされる。肺がん治療薬のイレッサ(一般名・ゲフィチニブ)が代表的だが、二〇〇二年の承認後、従来と異なる副作用の重い肺炎で死亡が相次いだ。専門医がよく検討し使う必要があるという。

QOLを重視

 がん薬物療法専門医が誕生した背景には、こうした化学療法の専門性の高まりがある。日本では手術を行う外科医が化学療法も手掛けることが多いが、米国では四十年前に化学療法が専門の腫瘍内科医が登場、治療の中核を担っている。

 瀧川講師が専門とする肺がんは、組織型で小細胞がんと非小細胞がん(腺がん、扁平(へんぺい)上皮がんなど)に大別される。全体の15~20%の小細胞がんは悪性度が高いが、抗がん剤が効きやすく、化学療法中心の治療が行われてきた。近年は非小細胞がんも化学療法の治療成績が向上している。

 「非小細胞がんは早期なら手術が第一選択肢だが、切除不能でも他臓器へ転移のない局所進行がんなら、放射線と化学療法を併用し治癒を目指す」と瀧川講師。「遠隔転移のある時は分子標的治療薬を組み合わせた化学療法でQOL(生活の質)を重視した延命治療を行う」と方針を語る。

 実際の治療は二、三種類の抗がん剤を組み合わせた投与を三、四週間隔で四~六回繰り返す。岡山大病院を中心とした岡山肺がん治療研究会の症例では、切除不能な局所進行がんは放射線と化学療法の併用で、生存期間中央値が二年前後、五年生存率30%に達した。手術した場合も術後に化学療法を行うと、転移や再発を防げ治療成績が上がるという。進行がんでは抗がん剤で腫瘍を縮小させてから手術を行う場合もあり、化学療法の対象は広がっている。

広がる外来

 気になるのは副作用。薬や個人による差はあるが、副作用のない抗がん剤は今のところない。肺がん治療でよく使われるランダ、ブリプラチン(一般名・シスプラチン)は嘔吐(おうと)を起こすことが多い。ただ、「ここ十年ほどで良い制吐剤ができ、症状が軽減された」という。発熱や感染症を起こす白血球減少も薬で防げるようになった。脱毛は不快だが一時的で、化学療法を終えると数カ月で元に戻る。

 副作用対策の進歩に伴い、患者が通院し抗がん剤の投与を受ける外来治療が広がっている。同病院で化学療法を受ける肺がん患者のうち、半数の約七十人が外来治療。入院で強力な化学療法を行った後、様子をみて退院し治療を続けることが多い。QOLを重視した治療といえる。

 瀧川講師は「治療の目標は治癒だが、すべてのがんが完治するわけではない。治癒が不可能な場合は延命とQOLの維持が目的となる。患者が納得した上で治療を受けられるようサポートしたい」と話している。

 たきがわ・なぎお 岡山大卒。同大大学院修了後、米留学をへて南岡山医療センター、四国がんセンターなどに勤務。昨年5月から現職。43歳。

ズーム

 がん薬物療法専門医 日本臨床腫瘍学会が本年度、初めて47人を認定した。薬物療法に精通した医師を養成する狙い。5年以上のがん治療の臨床研修などが条件で、認定試験もある。岡山県は瀧川奈義夫(岡山大病院)上月稔幸(同、米留学中)堀田勝幸(岡山大保健環境センター)、広島県は岩本康男(広島市民病院)久山彰一(中国中央病院)駄賀晴子(広島赤十字・原爆病院)の各3氏。香川県はゼロ。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2006年10月17日 更新)

タグ: がん健康岡山大学病院

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