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座談会・新病院2016年1月に開院 岡山済生会総合病院、救急医療と入院診療に特化

来年1月に開院する岡山済生会総合病院の新病院=岡山市北区国体町

伊原木隆太(いばらぎ・りゅうた)氏 東京大学工学部を卒業後、外資系経営コンサルティング会社を経て、米スタンフォード・ビジネススクールでMBAを取得。天満屋社長を務め、退任して2012年から現職。岡山市出身。49歳。

炭谷茂(すみたに・しげる)氏 東京大学法学部を卒業後、厚生省(当時)に入省。厚生省社会・援護局長、環境省官房長などを経て、2003年環境事務次官、06年退官。08年から現職。富山県出身。69歳。

山本和秀(やまもと・かずひで)氏 岡山大学大学院を卒業後、カナダ・トロント大学留学を経て、2005年から岡山済生会総合病院副院長、07年から岡山大学大学院消化器・肝臓内科教授。15年4月から現職。岡山市出身。66歳。

 岡山済生会総合病院が救急医療と入院診療に特化した新病院を岡山市北区国体町に整備し、来年1月1日に移転する。救急やがん診療、センター医療の設備を充実させ、現在の病院(同伊福町)は外来専門の施設として再整備。地域基幹病院の機能をアップする。25日の新病院竣工を機に、同病院の山本和秀院長、社会福祉法人恩賜財団済生会の炭谷茂理事長、伊原木隆太知事に新病院の特長や目指す医療などについて語り合ってもらった。(文中敬称略)

新病院の特長

 ―1938(昭和13)年に開設された岡山済生会総合病院が来年1月から新たな体制で地域医療を支えていく。新病院の概要から伺いたい。

 山本 新病院は入院診療と救急医療中心とし、現在の伊福町の施設は外来診療専門の「岡山済生会総合病院附属外来センター」になる。入院と外来を分ける「入外分離」方式で、新病院は急性期病院として救急と入院医療を充実させるため、重症患者への対応、がん診療や難病診療の機能などを充実。厚生労働省は大きな病院と診療所の役割分担を求めており、外来センターは軽症患者を診るのではなく、かかりつけ医からの紹介患者や専門診療を重点とする施設として機能アップさせます。

 ―全国で医療福祉事業を展開する済生会の本部として、今回の取り組みは。

 炭谷 済生会は1911(明治44)年、明治天皇の「済生勅語」に基づき創立された。当時多かった医療や福祉サービスに恵まれない人々に手を差し伸べるもので、今もその精神と使命を受け継ぎ、社会福祉法人として事業展開している。長い歴史の中で、医療や福祉のニーズは常に変化してきたが、変化を常にキャッチし、対応していくことが求められている。入外分離でそれぞれサービスの質を高めていくのは、時代のニーズに合った試みだと高く評価している。

 ―10階建て、延べ約4万6700平方メートルとなる新病院の設備面の特長は。

 山本 救急スペースを拡張して五つの処置室と8床の救急病室を有し、CT(コンピューター断層撮影装置)やMRI(磁気共鳴画像装置)を近くに配置し、必要な画像検査がすぐに受けられるようにする。カテーテル検査、IVR(画像診断技術の治療的応用)治療室も用意し重症患者に対応。これまでのICU(集中治療室)10床に加え、HCU(高度治療室)を16床新設して受け入れ体制の強化を図り「断らない救急」を一層推進する。553床の病床は個室を拡充。建物は免震構造で屋上にヘリポートを備え、災害拠点病院としての機能も充実させる。

 ―岡山済生会総合病院は高度な医療を進めてきており、特に「岡山のがんセンター」の一つとしてがん診療の実績が高く評価されている。

 山本 新病院ではさらに診療の質を向上させるべく手術室を拡充し、手術用3D内視鏡を導入するなど設備を充実。内視鏡センターは、360度電子ラジアル振動子を搭載した超音波内視鏡や最新の光源装置といった充実した機器で高度な医療を提供し、がんの早期発見を目指す。緩和ケア病棟のアメニティーも充実させ、がん患者の生活の質の向上を図りたい。

 伊原木 岡山済生会総合病院が、緩和ケアや規模の小さい病院への画像診断・病理診断支援などに積極的に取り組んできた実績は大きく、国民の半分がかかり、死亡原因の3分の1を占めるがんに対する拠点病院としての機能強化に県としても期待している。

 山本 がん以外でも、糖尿病と腎不全について、腎臓病・糖尿病総合医療センターを中心にこれまで幅広く取り組んできており、新病院開設を機に一層充実していきたい。循環器疾患もカテーテル治療などのIVR治療ができる設備を準備。急性心筋梗塞などに対する体制も整えていく方針だ。

 ―現在の病院は順次改装し、充実した施設にしていくと伺っている。

 山本 外来診療を行いつつ、最近ニーズの高まっている日帰り手術のセンター(手術室3室)を来年秋に開設する計画。また、西館と西2号館、立体駐車場を取り壊し、2018年春には自走式の立体駐車場を新たに作り、併せて駐車場の上に健診センターを移転する予定で、患者や健診センターの受診者の利便性を高めていきたい。

 ―このところ県内では岡山市を中心に総合病院の新築移転や施設増強が続いている。その中で、岡山済生会総合病院の刷新は、岡山県全体の医療福祉充実につながる。

 伊原木 今年5月に岡山赤十字病院の新館オープンと岡山市立市民病院の新築移転が相次ぎ、今回は岡山済生会総合病院。来年8月には川崎医科大学附属川崎病院が新築移転する。いずれも伝統がある病院であり、それぞれの強みを発揮しながら岡山の医療の総合力を高めてもらえればと考えている。

入院から在宅まで

 ―少子化と超高齢社会を迎え、地域医療は財政的にも人材確保でも大きな転機を迎えている。昨年6月には医療介護総合確保推進法が成立。団塊世代が後期高齢者となる2025年に向けた医療提供体制の改革が始まった。県の取り組みについて伺いたい。

 伊原木 急性期から在宅まで切れ目なくかつ効率的な医療を提供する体制をどう作っていくか。現在、県は2025年に必要となる病院や有床診療所の病床数を推計し、今後目指すべき医療提供体制とこれを実現するための施策を盛り込んだ地域医療構想の策定を進めている。地域医療構想の趣旨は、将来必要な病床数、つまり医療需要を見据え、関係者がしっかり協議を行い、地域にふさわしいバランスのとれた医療機能の役割分担と連携を適切に進めていくことにより、効率的で質の高い医療を提供することを目指すものだ。各病院にはそれぞれ経営の都合がある。構想策定後は、関係者の皆さんとしっかり話し合い、意見交換をしていきたいと思う。

 ―具体的にはどう進めていく。

 伊原木 岡山県は五つの保健所の圏域で地域医療構想調整会議を通じて調整をしていくが、大変難しい作業だ。関係する皆さんの将来に対する思いを調整しつつ、現実と必要なものとのギャップも埋めていかなければならない。国のイニシアチブで昨年度創設された地域医療介護総合確保基金も活用して、医療機関の役割分担と連携、在宅医療の充実、医療従事者の確保のための取り組みを進めており、きちんとした医療が提供される枠組みを目指す。

 ―急性期から在宅まで切れ目のない医療を提供していくためには、「役割分担と連携」がキーワードになる。

 山本 現病院にある「地域医療連携センター」をリニューアル・強化し、新病院に「患者サポートセンター」を開設。患者と家族の多様な背景や考え方を聞き、さまざまな連携を取って病床管理や退院後の支援までを充実させる予定だ。患者ごとに違う家庭環境、居住環境にも配慮。入院から退院、地域での継続療養、リハビリなどが円滑に進むよう地域医療支援病院としてサポートしていく。

 炭谷 岡山県済生会は、岡山済生会総合病院を中心に診療所もあり、特別養護老人ホームやライフケアセンターなど福祉関係の施設も数多く運営。医療と福祉が総合的に連携を取れる条件がそろっている。国は地域包括ケアサービスの展開を目標にしているが、モデルはまだ定まっていない。岡山県で同病院が中心となり、これが本当の地域包括ケアサービスだというモデルをぜひ示してもらいたいし、それだけの資源があると期待している。

伝統の精神

 ―済生会はへき地医療にも積極的で、瀬戸内海の離島医療を支える診療船「済生丸」は就航半世紀余りになる。

 山本 1962年に運航を始めた済生丸は、財政面から一時廃止の議論もあったが、島民らの要望もあって4代目となる船が建造され昨年就航した。岡山、広島、香川、愛媛の4県の済生会が共同で運航。2014年度は65の島を巡回、延べ9千人余りが受診した。また、当病院はへき地医療の支援病院として、岡山県全体の広域的なへき地医療支援事業の企画や調整、へき地医療に関わる各種事業を効率的に実施している。

 炭谷 済生丸の草創期に岡山済生会総合病院の院長だった大和人士先生は離島の医療、へき地医療に大変熱心な方で、その姿勢は同病院の伝統となっている。診療船はかつて瀬戸内海沿岸の県が持つなどたくさんあった。それが次第に廃止となり、最後に残ったのが済生丸。ほかの団体が撤退しても、最後まで踏みとどまるところに済生会の精神がある。

 ―へき地医療への済生会の取り組みを県はどうみているか。

 伊原木 岡山県内の医療従事者数は、人口対比で全国平均を上回るが、県南に集中しているのが現状で、県北、中山間地域では状況が違う。また、島しょ部は病院へのアクセスが大変厳しい。そんな中で、岡山済生会総合病院には県のへき地医療支援機構の運営を受託していただいており、へき地の医師確保や医療の運営にご尽力いただいていることに対して心から感謝しているし、県民にとっても本当にありがたい。

 炭谷 日本社会の最終ラインを守るのが済生会の使命。へき地医療だけでなく、ホームレスや刑務所からの出所者への支援などを積極的に行っているのも一つの特色だ。

将来展望

 ―済生会が100年以上にわたり地域医療に貢献してきた実績を踏まえ、新たなスタートを切る岡山済生会総合病院への期待や抱負を伺いたい。

 伊原木 へき地医療支援機構・へき地医療拠点病院としての役割を果たしてくださっていることを心強く思う。また、救急への注力や病院の耐震性の高さから、将来予測される南海トラフ地震などを想定した災害拠点病院としての機能も含め、これからの岡山の医療の充実に大きな役割を果たしていかれると期待している。

 山本 当病院の理念である「あらゆる人々に手をさしのべる済生の心でまことの医療奉仕につとめます」のもと、がん医療など先進的な医療はもちろん、恵まれない人への無料・低額診療、へき地医療に力を入れてきた。済生会は社会福祉法人であり、当病院は県内の公的病院の中でも独自の立ち位置にある。済生会に与えられた使命を着実に果たしていきたい。

 炭谷 済生会の精神的源流は聖徳太子が開いたと伝えられる施薬院、療病院、悲田院にある。また、医療と福祉の両方を行う日本で一番大きい団体で、おそらく世界でも最大級だろう。この二つの特色を生かし、済生会が大切にしていくべき基本は一人ひとりの患者、利用者に真心を持ってサービスを提供していくことだ。済生会は日本全体で79の病院、20の診療所、300を超す福祉施設があり、例えば岡山済生会総合病院で一人の患者に行う医療サービスの背後には世界最大級の医療スタッフや福祉スタッフがいる。済生会の病院や診療所、福祉施設は常に連携し、サービスの質を向上するための日常的な交流や研究活動を行っている。一人の患者に、済生会の総合力が注がれているという思いを、スタッフとともに持ち続けたいですね。



 岡山済生会総合病院は12月5日(土)の10時~16時(最終受付15時)、新病院の一般見学会を開く。同病院は公共交通機関での来場を呼び掛けている。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2015年11月25日 更新)

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