文字 
  • ホーム
  • 岡山のニュース
  • 鎌田實さん(諏訪中央病院名誉院長)笠岡で講演 ベストセラー「がんばらない」 温かく寄り添うケア大切 終末期患者への医療で訴え

鎌田實さん(諏訪中央病院名誉院長)笠岡で講演 ベストセラー「がんばらない」 温かく寄り添うケア大切 終末期患者への医療で訴え

鎌田實さん

 がんなどで回復が難しくなった患者をどう支えるのか、終末期医療に関心が高まっている。そうした患者との交流をベストセラー「がんばらない」につづった諏訪中央病院(長野県茅野市)名誉院長の鎌田實さん(58)が、笠岡市であった同市認知症介護研修センター講座で講演。「最後のひと呼吸まで患者は価値ある存在として自分らしく生きたいと願っている。それに温かく寄り添うケアが大切だ」と訴えた。

 ホスピスや二十四時間対応の在宅ケアなど終末期医療のモデルを同病院に築いた鎌田さん。「見捨てない医療」を目指したケアの例を紹介した。

 ホスピスに入院していたがん末期の五十代女性は、夫と小さなレストランを営んでいた。一日に一組だけ、予約客にフランス料理のフルコースを出していた。

 鎌田さんが「知っていたら行きたかった」と残念がると、闘病で半年間料理から離れていた女性が目を輝かせた。「料理を作り、喜んでもらうのが自分の人生のすべてだった。もう一回作りたい」。残る体力に合わせフルコースを数回に分け週一回、病院スタッフに振る舞うことになった。「本当においしかった」。鎌田さんは言う。

 女性は三回目が終わった後、「来週がメーンディッシュ。料理も最後。何にしようか迷っている」と笑った。ところが、最後の料理にはたどりつけなかった。

 「冷たい告知をしなくても、患者は大概いよいよであることが分かる」と鎌田さん。数日後、女性は鎌田さんを呼び「来週の約束は守れそうにない」とわびた。そして、「言える時にありがとうと言いたかった」と話し、別れを告げた。

 亡くなった後、鎌田さんは、女性が残したノートを見た夫からメーンディッシュが帆立て貝のパイ包みだったのを聞いた。「食べたかった」と残念がると、夫は「妻も作りたかったと思う」と言いながら「料理が始まってから妻は本当にうれしそうな顔をしていた。いい時間だった」と振り返った。

 共にがんを患って在宅で療養していた八十代夫婦も紹介。社交ダンスが共通の趣味だった。

 やがて妻の病状が悪化。だが、来院するよう電話で説得しても、妻は「ちょっと待って」の繰り返し。結局、夜に緊急入院した。なぜ我慢したのか看護師が尋ねると「あさってのダンスパーティーで最後に夫と踊りたかった」と打ち明けた。

 看護師たちは病院の食堂をダンスホールに仕立て、夫婦はラストダンスを踊った。終わると、夫は妻と抱き合い「ありがとう」と声を掛けた。四日後、妻は逝った。

 「何かやり残したことがないか。押しつけがましいことは言わず、聞き役を心掛けていた」。鎌田さんは終末期患者とのコミュニケーションについて語った。「ちょっとした勇気と周りのケアがあれば、患者の願いはかなえられる」という。

 昨春、院長、最高経営責任者(CEO)と続いた同病院での重責を離れた鎌田さん。今はチェルノブイリやイラクでの医療支援活動に力を注ぐ。最後にこう呼び掛けた。

 「今、世界も日本の社会も、すごくギスギスしている。でも、それにへこたれず温かなことができるはず。病院にも温かな風が吹けば、つらいだけの治療からいろんなものを学べ成長できる。やれる範囲で小さな温かさの連鎖を起こすことが大事だ」

 かまた・みのる 1948年東京生まれ。74年に東京医科歯科大卒業、諏訪中央病院で地域医療に携わる。88年、院長に就任。一貫して「住民とともにつくる医療」を実践。患者との交流を書いた「がんばらない」がベストセラーになる。チェルノブイリやイラクの医療支援も行っている。近著に「ちょい太でだいじょうぶ」(集英社)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2006年10月31日 更新)

タグ: がん健康医療・話題

カテゴリー

ページトップへ

ページトップへ