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(5)これからの関節リウマチ診療の展望 倉敷スイートホスピタル副院長・リウマチセンター長 棗田将光

図3 岡山大学・西田圭一郎准教授(左手前)と連携

棗田将光副院長

 今回は、今までお話してきた関節リウマチ診療の流れをまとめるとともに、メディカルスタッフによるチーム医療の重要性と今後の展望についてお話いたします。

 この約10年で登場した多くの生物学的製剤(BIO)や抗リウマチ薬(csDMARD)によって見えてきたことを整理してみましょう。「治療目標の確立」「新しい寛解基準」「治療指針の確立」「早期治療の重要性」が提唱され、その結果、「関節破壊の抑制」「寛解の現実化」「QOL(生活の質)の向上」「健康寿命の改善」「手術による劇的な機能回復」が現実化しました。

 他方、関節リウマチは骨粗鬆(そしょう)症・呼吸器障害・糖尿病・高血圧・胃腸病といったさまざまな合併症が多く(図1)、これらは患者の健康寿命に関わるため、関節痛の治療だけでなく「合併症の管理」、すなわち「全身を診る」ことの重要性も浮き彫りになりました。当センターのリウマチ内科医はリウマチ専門医であるとともに全員が総合内科専門医の資格を有しています。合併症も見逃さず治療を行う「全身を診る」ことを診察の基本としています。

▼白血球除去療法(LCAP)について 

 さて、症例によってはどのBIOも効かなかったり、合併症や副作用で薬物治療の目標達成がうまくできない場合もあります。この場合、当センターでは白血球除去療法(LCAP)を選択肢の一つにしています。この方法は、関節リウマチの原因となる異常な白血球の一部を除去して炎症を抑える方法で、副作用も少ない治療法です。病勢の強い方が適応で、われわれの施設では一定の有効性を得ています(図2)。

▼妊娠と出産について 

 「私はリウマチだから出産なんて無理だわ」「育児が大変そうだから子どもはあきらめたの」などといわれる患者さんは少なくありません。しかし、治療薬を上手に使いながら妊娠・出産をされた方は多くおられます。妊娠前後の薬物治療の原則は「有益性投与」です。

 分かりやすくいうと「治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合に投与」、つまり最も大切なことは、まず妊娠前までにBIOなどの治療で病気の勢いをしっかり抑えることです。その際使ってはいけない薬もありますので、患者さん方にも正しい知識を持っていただくことも大切です。妊娠・出産を希望される方は授乳期間も含めて必ず専門医に相談し、適切な治療を受けてください。笑顔あふれるご家庭を築かれることを望みます。

▼実診療でのメディカルスタッフの役割   

 関節リウマチはその治療が長期にわたるため、患者さんにとっては心理的負担も大きく、さらに薬価の高いBIO導入となれば経済的にも大きな負担となります。これらのさまざまな問題を医師だけで解決することは難しく、医師以外のメディカルスタッフの協力が必要となります。

 われわれスタッフはこれらの背景を踏まえた上で個々の症例の多様なニーズに対応するため、看護師・リハビリテーション・医療ソーシャルワーカーなど多職種連携(チーム医療)によるトータルマネージメントを行っています。例えば薬物治療によって臨床的寛解(腫れや痛みが消失した状態)が得られたとしても、変形によって日常生活動作が制限された場合は、第3回でお話したように当センターでは整形外科篠田医師のほか、岡山大学の西田圭一郎准教授と連携(図3)し、関節温存術や人工関節術で関節機能回復とQOL向上を目指します。

 身体機能の回復には関節リウマチに精通したスタッフによるリハビリテーションは不可欠であり、看護師の介在も患者と医師のコミュニケーションには必須といえます。医療ソーシャルワーカーは複雑な社会保障や支援制度の情報提供を行うことで「保健」「医療」「福祉」の各サービスの調整や活用のほか、病診連携・病病連携や地域社会との調整を通じ、患者の心理的・経済的・社会的問題の解決を工夫していきます。

▼今後のリウマチ診療とチーム医療の展開   

 関節リウマチに対する新規薬剤や手術療法の進歩は目を見張るものがあり、先端医療・予防医療・再生医療も近未来には導入されるでしょう。一方で、医療技術の進歩、数値化や可視化されない患者満足度の向上も非常に重要であると考えます。

 医療スタッフが常に心がけるべきことは、患者さんの「つらいこと」「困っていること」「悩んでいること」を傾聴し、目の前の機能障害に目を向けて一つずつ解決しながら、心から満足していただける医療サービスを提供することです。患者満足度向上は、多職種によるメディカルスタッフで構成されるチーム医療によって達成されるものと思っています。患者さんの「痛みの無い、機能障害の無い、充実した生活」を切に望みます。

 次回はソーシャルワーカーより、リウマチ治療に関わる社会保障制度や医療・福祉制度についてお話させていただきます。

 ◇倉敷スイートホスピタル(086―463―7111)

 なつめだ・まさみつ 広島県・修道高、徳島大医学部卒。岡山大医学部第三内科、尾道市民病院などを経て1991年倉敷広済病院(現倉敷スイートホスピタル)。2008年副院長、12年リウマチセンター長兼務。日本リウマチ学会評議員・専門医・指導医、日本臨床リウマチ学会評議員、日本内科学会認定内科医、総合内科専門医。岡山大医学部臨床教授。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2015年12月07日 更新)

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