文字 

(20)小児の心疾患治療  岡山大病院小児循環器科 大月審一教授

大月審一小児循環器科教授

 ―子どもが心疾患を発症する頻度は。

 大月 生まれつき心臓に異常がある子は1%、つまり100人に1人の割合で起こります。先天性疾患としては比較的頻度が高いといえます。

 ―代表的な病名と症状は。

 大月 病気のタイプは、心臓内部の壁などに穴が開いて血液が心臓と肺の間を余分に循環し、心臓と肺に負担が掛かる肺血流増加群、酸素の少ない静脈の血液が大動脈を通して全身に流れ、唇や手足が紫色になる肺血流低下・チアノーゼ群に分けられます。

 前者は、心室の間に穴が開く心室中隔欠損症、心房の間に穴が開く心房中隔欠損症、大動脈と肺動脈の間に生後も血管が残存する動脈管開存症などがあります。呼吸が速くなったり、ミルクが飲めなかったり、おしっこが出ずに体重が増えないという症状が出ます。

 後者は、肺動脈狭窄(きょうさく)と心室中隔欠損などを併発し、右心室の壁が厚くなるファロー四徴症や肺動脈閉鎖症が代表的な疾患です。新生児期より治療が必要なことも多く、心臓全体に形態的な異常があり、前者に比べ、より重篤です。

 ―どのような治療をしますか。

 大月 治療専用に開発された特殊なカテーテルを用いて穴が開いた部分を閉鎖したり、狭窄をバルーンや金属製のステントで拡張したり、正常血流に悪影響を及ぼす血管にコイルを留置したりします。主に足の付け根にある血管からカテーテルを挿入し、心臓周辺で治療を行います。生まれたばかりの新生児でも治療可能で、過去には1500グラム程度の赤ちゃんにも実施したことがあります。標準的な入院期間は4泊5日です。

 ―カテーテルはあらゆる症例に有効でしょうか。

 大月 患者さんの多い心房中隔欠損症、動脈管閉鎖症、肺動脈弁狭窄症などはほとんどカテーテル治療で対応できます。しかし、心室中隔欠損症は国内ではカテーテル治療が認可されておらず、手術を選択せざるを得ません。また、肺血流低下・チアノーゼ群などの形態的な異常は、残念ながら一部を除きカテーテル治療だけでは根治できないので、心臓血管外科と協力し治療戦略を考えます。

 ―岡山大病院のカテーテル治療の実績は。

 大月 年間300例以上と全国最多の実績です。他施設で対応困難となり紹介される症例も多く、患者さんは全国から来院されます。国内でカテーテル治療が始まって35年ほどたちますが、小児の心臓や血管は小さくぜい弱で、繊細な手技が必要なため対応できる医療機関は限られています。患者さんのためにはもっと普及させなくてはならず、他県にも指導に出向くことがあります。私たちの目標は、子どもたち一人一人が幸せな人生を送ることができるように支えていくことです。

 ―乳幼児の治療は確かに難しそうですね。

 大月 先天性の疾患なので、病態は百人百様。個々の症状に応じた治療戦略を立てなくてはいけません。心臓血管外科、小児麻酔科、産婦人科、小児放射線科、NICU(新生児集中治療室)などと連携し治療方針を立てています。感染症や脱水症状などを引き起こさないよう、全身管理にも万全を期します。

 ―治療後の日常生活への影響は。

 大月 大抵の肺血流増加群は治療をすると完治し、運動制限もなく日常生活を送ることができます。一方、肺血流低下・チアノーゼ群は体の成長に従って新たな症状が現れ、再手術が必要になることがあります。また、心臓に負担が掛かりすぎるため大人になって妊娠・出産が好ましくない場合もあります。しかし、産婦人科と連携して長期入院を経て出産に成功した方もいらっしゃいます。大学病院ならではのチーム医療の成果と考えています。どんな場合にも患者さんが充実した人生を歩めるよう、治療に最善を尽くすことを約束します。

 ―心臓幹細胞を培養し心筋に戻して心機能を強化する世界初の再生医療の研究に取り組んでいます。

 大月 生まれつき心室が一つしかない複雑な先天性心疾患症例を対象に、患者さん自身の心臓から幹細胞を抽出し、10日間培養して細胞を増やし、再び冠動脈へカテーテルで注入します。幹細胞抽出は佐野俊二心臓血管外科教授、培養は王英正新医療研究開発センター教授、注入は私が担当しています。2011年春からスタートし、生後6カ月から3歳くらいまでの43人に行いました。

 ―成果はいかがでしょうか。

 大月 43人全員に心機能の改善が確認できました。この病気は重度なら心臓移植しか治療法がないことを考えると、非常に大きな成果だと思います。日本では現実問題として小児の脳死ドナーがほとんど現れませんし、移植はかけがえのない一人の子どもの死を前提にした医療です。だからこそ、私たちの究極の夢は心臓移植の必要ない医療の実現です。現在、臨床応用に向けた最終段階となる治験の準備を進めています。これを1年から1年半で終え、2~3年後には保険適用となることを目指しています。

 ◇

 岡山大病院(岡山市北区鹿田町2の5の1、086―223―7151)

 おおつき・しんいち 岡山操山高、香川医科大医学部卒。1989年に岡山大医学部小児科に入局し、松山赤十字病院、広島市民病院などで勤務。95年に岡山大病院に戻り、周産母子センター准教授などを歴任し、2010年11月に小児循環器科教授に就任。日本小児循環器カテーテル治療学会副理事長、日本小児循環器学会評議員、日本小児心筋疾患学会幹事。医学博士。54歳。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2015年12月07日 更新)

カテゴリー

ページトップへ

ページトップへ