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岡山県内 看護師争奪が激化 診療報酬改定で配置基準見直し リポート2006 病院間の格差懸念も

引く手あまたの看護師の採用試験。各病院は例年より試験回数を増やすなどし、確保に懸命だ

 岡山県内の病院で激しい看護師の争奪戦が繰り広げられている。今春、診療報酬算定の基になる看護師の配置基準が見直され、看護師を一定数以上確保すれば、従来より高額の入院基本料が得られるようになったためだ。各病院が人員確保に奔走する中、なかなかめどが立たないところも多い。病院により格差ができ、最終的に患者にしわ寄せが出ないかを懸念する声もある。

 「ナースとして夢を実現できる病院」。岡山大病院(岡山市鹿田町)は九月末、こんなキャッチフレーズの新聞広告を出した。これに先立つ七月には、森田潔病院長ら幹部が中四国や関西、九州の看護系学部・学科がある大学、短大十数カ所を手分けして訪問した。来春、看護師を八十人増員し七百人体制にする計画で、人員確保に見通しがついたという。

2割以上増収

 今年四月の診療報酬改定により各病院の目標となったのは、入院患者七人に対し看護師一人の配置。この基準をクリアすれば、病院に支払われる入院基本料が二割以上アップする。

 「増収」という動機づけで病院に看護師増員を促し、医療の質の充実と、在院日数短縮による医療費抑制を進める狙い。岡山市のある大規模病院は「年間数億円の収入増が見込める」とそろばんを弾く。

 岡山社会保険事務局によると、県内百八十一病院のうち、既に新基準を達成しているのは岡山、倉敷市などの五カ所。岡山大病院など多くの大規模病院が来春からの移行を目指している。

 この基準について関係者からは、看護の質の向上への期待の声が聞かれる。県看護協会の中西綾子専務理事は「医療における看護師の重要性が評価された制度。士気の向上や離職防止につながる」とし、岡山大病院の山田佐登美看護部長は「看護師の業務に余裕が生まれ、患者のニーズに応じたきめ細かな対応が可能になる」と患者へのメリットを強調する。

絶対数が不足

 だが、大半の病院が人員確保に四苦八苦しているのが現状だ。県施設指導課によると、県内の看護師は推計二万三千五百人で、県が設定する標準的な人員(二万三千九百五十人)より四百五十人のマイナス。絶対的な看護師不足が背景にある。

 岡山市の複数の病院は、確保の機会を増やそうと、従来は年一度だった採用試験を二、三回実施した。同市の別の総合病院は職員らに対し、常勤看護師を紹介すれば五万円、非常勤なら二万円を払う制度を設けたが、二十人の増員目標に対し、現段階では非常勤を三人確保できただけ。関係者によると、病院間での引き抜きも行われているという。

 限られたパイを奪い合うことに、県医療労働組合連合会の福田幸恵副委員長は「絶対数が足りない中、病院によっては看護師不足に拍車が掛かり、必要な医療を提供できなくなる」と懸念する。

 医療制度に詳しい川崎医療福祉大医療福祉学部の小池将文教授(社会政策)は「収入増だけを目標にベッド数を減らしたりする動きが出ないとは限らない。今回の制度改正が医療の質の向上につながるかどうか、慎重に見極める必要がある」と話す。


ズーム

 看護師配置による入院基本料 入院患者数に対する看護師数の割合で病院に支払われる入院基本料は区分され、看護師数が多いほど高くなる。従来の最も高額の区分は「入院患者10人に看護師1人」で1日当たり1万2690円。4月の診療報酬改定で「7人に1人」の区分が新設され、同1万5550円に設定された。


視点

ゴールは医療の質向上

 急性期医療の充実を図り、在院日数の短縮、医療費削減を図る―。今回の診療報酬改定の狙いは明確だ。患者本位の医療へつながるという医療関係者の期待も大きいようだ。

 しかし、東京大病院など全国の名だたる病院が岡山県内各地を行脚するなど、競争はし烈を極め、同県内で現在、七対一の配置基準をクリアできるめどが立ったのは岡山大病院などごく一部だけ。多くの病院は苦戦を強いられているようだ。

 医療制度改革に優勝劣敗の原理が導入された結果、救急体制の縮小、ベッドの削減など、どんな影響が出てくるのだろうか。医療機関に忘れてほしくないのは、数合わせではなく、医療の質の向上が目指すべきゴールということだ。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2006年11月01日 更新)

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