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ES細胞から人工肝臓 岡山大グループ開発 世界初 マウス実験成功 新治療法へ期待

体内埋め込み型人工肝臓のイメージ図

小林直哉助手

アレハンドロ・ソト・グテイエルスさん

 岡山大大学院医歯薬学総合研究科消化器・腫瘍(しゅよう)外科学(田中紀章教授)の小林直哉助手(45)と、大学院生アレハンドロ・ソト・グテイエルスさん(27)=メキシコ国籍=らのグループは、どんな細胞にも成長できるマウスの胚(はい)性幹細胞(ES細胞)から作り出した肝細胞を使い「体内埋め込み型人工肝臓」を世界で初めて開発、マウスでの実験に成功した。ドナー不足で肝移植が進まない中、新たな治療法確立につながる成果として期待される。五日付米科学誌ネイチャー・バイオテクノロジー(電子版)で発表した。

 グループは、肝細胞と、肝臓の再生に重要な役割を担う高濃度の肝細胞増殖因子(HGF)をES細胞に加え培養。肝臓を構成する他の細胞も一緒に入れ、通常より能力が二倍高い肝細胞を作り出すことに成功した。

 人工肝臓の容器は、周囲に血管が集まりやすいよう特定のタンパク質でコーティングした網目状バッグ(縦横一・五センチ)。皮下移植後、注射器で肝細胞を注入すると、アンモニア毒素を分解したり、栄養分となる糖などを作る成分がバッグから放出され、血管を通って全身を巡る仕組み。

 肝臓の九割を切除した急性肝不全マウスを、人工肝臓を移植した十匹と、何もしない十匹に分けて実験した結果、移植マウスは二十四時間後から血中の毒素の濃度が低下。切除された肝臓も一週間で元の三割まで戻り機能も正常化した。人工肝臓の働きで肝臓の負担が減り、再生したとみられる。何もしないマウスは四日後に死亡した。

 今後、マウス以外の動物で実験を進める。

 小林助手は「ES細胞は肝細胞を無限に増やせるメリットがあるが、増殖しすぎて悪影響を及ぼす恐れがある。埋め込み型だとバッグから細胞が漏れず安全性は高い。移植を待つ間や肝機能回復まで急場をしのぐ治療法として実用化させたい」と話している。


大きな壁越えた

 門田守人・日本外科学会長(大阪大消化器外科学教授)の話 成熟した肝細胞を効率よく作り出すのは難しかったが、今回の成功で大きな壁を越えたといえる。大動物の実験を見守る必要があるが、理想に近い人工肝臓の一つの形を示したといえ、実用化の可能性もあるだろう。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2006年11月06日 更新)

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