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高次脳機能障害 悩み共有 津山・つるの会結成10年

食事を囲みながら近況などを報告する「つるの会」の会員=津山市内

 高次脳機能障害の当事者とその家族でつくる「つるの会」(事務局・津山市)が11月、結成から10年を迎えた。物忘れや失語など深刻な症状を抱えるが、見た目に分かりづらいため、社会から孤立しがちとされる同障害。月に1度集まり、悩みを打ち明け、分かち合う団体の活動は、会員にとって救いの場となっている。

 11月上旬の平日昼すぎ。同会の会長を務める土井美智江さん(72)=同市=は、自宅で車いすの夫謙一さん(74)に寄り添い、歯磨きを始めた。「ワン、ツー、スリー…」。掛け声とともに手際良くブラシを動かす。仕上げは先端にスポンジを取り付けた棒で口の中をマッサージ。「一日3回、食事のたびに繰り返すんですよ」と土井さんは言う。毎日、食事、着替え、排せつといった生活全般の介護を続ける。

 謙一さんが交通事故で同障害を負ったのは2007年。体の硬直や嚥下(えんげ)障害、認知症と容体が進行する中、周囲に頼る場もなく、土井さん自身もうつ病になりかけた。そんな時、保健師から会の存在を知らされて入会。同じ境遇に置かれた人たちと出会い、以来、心のよりどころになったという。

 会は05年11月、同市と真庭市の当事者とその家族計7人で発足。現在の会員は津山市と美咲町の8家族23人で、年齢は20~70代と幅広い。奇数月は第3日曜、偶数月は第3火曜に定例会を開催。井口の市コミュニティセンターあいあいなどに集まり、座談会形式で約2時間、お互いの情報を共有している。

 11月中旬には同市内の料理店に集まり、昼食を囲みながら懇談。家族や仕事、将来のことなど内容はさまざまだ。40代の長男が同障害と診断された女性(65)=同市=は「つらかったことをここで話すだけですっきりする。私だけではないんだと思える」と話す。

 順調な活動の半面、気になるのは会員数の伸び悩みだ。徐々に増えてはいるものの、同障害を抱える人は全国で30~40万人以上いるとされることから推定すればまだ少数。一人で抱え込んでいる当事者や家族は岡山県内でも多いとみられる。障害への理解が進んでいないため、当事者が入りたくても家族が反対するケースもあるという。

 同会は、会の存在を広くPRしようと、昨年から市民向けのシンポジウムを企画。ちらしを作って地域のイベントでも配布するなど、一般市民への浸透を図っている。土井さんは「同障害は突然誰でもなり得る可能性がある。地道に活動を続け、患者を一人にさせない環境づくりにつなげたい」としている。会員は常時募集している。

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 高次脳機能障害 交通事故や病気などで脳の一部がダメージを受けて表れる後遺症。物忘れや判断力の低下などさまざまな症状がある。救急医療の進歩で一命を取り留める人の増加に伴い、患者は増えているとされる。診断を受けて申請が認められれば、精神障害者保健福祉手帳を受け取ることもできる。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2015年12月21日 更新)

タグ: 脳・神経介護

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