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音読と計算…介護施設に広まる「学習療法」 認知症の改善に効果? 岡山県内でも採用 専門家からは疑問の声も

学習療法で音読と計算に取り組むお年寄り。スタッフとのコミュニケーションが効果を高める=デイサービスセンター東倉敷

 簡単な音読と計算で認知症症状の緩和、改善を目指す「学習療法」が全国の高齢者介護施設に広まっている。岡山県内でも取り入れる施設が現れ、効果を確かめられたという。提唱するのは「脳トレーニング」のブームを起こした川島隆太・東北大教授。音読と計算が脳を活性化するという「科学的裏付け」が人気の一因だ。しかし一方で、首をかしげる専門家もいる。


 「本を読む」「手紙を書く」「1+1=2」「1+2=3」…。八十代の女性二人が並んでテーブルに着き、プリント教材に取り組む。一人は音読、もう一人は計算。終わると、向き合う職員がすぐ採点し「よくできました。満点です」。二人は満足そうにほほ笑んだ。

 倉敷市新田のデイサービスセンター東倉敷。同じ社会福祉法人が運営する岡山市西市デイサービスセンターとともに七月、岡山県内で初めて学習療法を導入した。三十人弱の通所者のうち、希望した七十、八十代の十人が週三日ずつ二十―三十分取り組む。利用者の負担は月千五百七十五円。


積極性も

 十月、三カ月間続けた七人が認知機能の検査を受けたところ、五人は当初より数値が改善。一人は維持で、機能の低下を抑えられていた。もう一人は低下していたものの、「思った以上の効果」と同センター主任の安田和広さん。西市デイサービスセンターも六人中四人が改善していた。

 効果はそれだけではない。「驚いたのは表情が豊かになったこと。笑顔が戻り、声も大きくなった。寝てばかりだった人が自ら学習に取り組むなど積極性も出てきた」

 学習療法は川島教授が二〇〇一年九月から半年間、福岡県の介護施設で学習をした四十七人と、しなかった三十八人を比べ効果を確認。共同研究する「くもん学習療法センター」が普及させている。一人一人の能力に応じ満点が取れ達成感を得られる教材を用意し、スタッフとコミュニケーションをとりながら進めるのが効果を高める秘けつという。〇四年の同センター設立から二年余で、導入施設は全国約三百施設に上っている。


データ不十分

 認知症には薬物治療が試みられているが、決定的な治療薬はまだない。そこで、脳を刺激して症状を改善、予防するリハビリとして、音楽療法や懐かしい思い出を語り合う回想法が行われている。中でも「学習療法は科学的裏付けがあり、成果が数値に表れ、自信を持って勧められる」。デイサービスセンター東倉敷の安田さんは語る。

 だが、専門家の間には疑問視する声もある。「まだデータが不十分。有用か判断できない」と、川崎医大病院(倉敷市松島)老人性痴呆疾患センター長の砂田芳秀教授(神経内科)。ただ、症状の進行を緩める可能性はあり、学習療法を機に高齢者と家族のコミュニケーションが増えれば良い影響があるという。

 同教授によると、認知症のケアは残っている能力をいかに引き出すかがポイント。「計算能力を失った人に無理をさせると逆効果。失われた能力と残っている能力は人により異なり、その人にどんな能力があるか見極めるのが大切」と指摘している。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2006年11月11日 更新)

タグ: 健康介護高齢者

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