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(21)心房細動のカテーテルアブレーション 心臓病センター榊原病院 伴場主一内科部長

伴場主一内科部長

 ―心房細動は不整脈の一種ですが、まず不整脈の説明から。

 伴場 一般への分かりやすさから電気回路などと表現されますが、実際は細胞から細胞への興奮の伝達ですね。興奮が次から次に伝えられ、心筋を、そして心臓全体を動かしている。この興奮の伝達経路や起点が余分にできるなどし、心臓の動きが不規則になる。これが不整脈の基本です。頻脈になったり、逆に遅くなったり。脈が飛ぶ期外収縮もあります。

 ―興奮の発生と伝達は心臓の拍動の源であり、これが正常であれば心臓が正常に動くわけですよね。

 伴場 そう。心臓は右心房にある洞結節の指令で通常1分間に50~100回、規則正しく動いている。しかし、例えば頻脈性不整脈の一種・心房細動では毎分300~600回も心房が動く。動くというより、けいれん状態ですね。

 ―心房がけいれん…。命に関わる気がしますが。

 伴場 心臓の働きの8~9割は心室が担っています。しかも心房の動きがそのまま心室に伝わらない仕組みになっている。だから助かっているわけです。命の不思議を感じますね。ただ、心室細動になるとこれは命の危険に直結します。

 ―心房細動は年齢とともに発症しやすくなり、脳梗塞の原因にもなる。要注意だそうですね。

 伴場 心房細動自体が命に関わる例はまれで、やはり脳梗塞との関連ですね。心房がけいれん状態になるのですから心臓内で血液が滞留し、血栓ができやすくなる。で、できた血栓が血流に乗って脳に運ばれ、血管を詰まらせると脳梗塞です。この病気の3分の1は心房細動が原因とされています。それと、年齢との関連では70代で5%、80代で10%程度が心房細動を発症するといわれます。

―自覚症状は?。

 伴場 人間の五感は主に外に向かって発達し、体の内側に対しては概して鈍い。自覚症状がないことも多く、健診の心電図で引っかかったり、かかりつけ医が最初に疑いを持つ場合もあります。残念ながら脳梗塞になって初めて心房細動が判明する人も少なくない。診断は心電図でつけます。

 ―心房細動をはじめ、不整脈はカテーテルアブレーション(心筋焼灼(しょうしゃく)術)によって初めて根治が可能になったのですね。

 伴場 はい。アブレーションが普及し始めたのは1990年ごろ。歴史は浅いですが、この治療法の登場前は主に薬で症状を抑えるしかなかった。手術では手首からカテーテルを入れ、心臓まで送り込みます。最初に不整脈は心筋の興奮の余分な発生や伝達と言いましたが、この伝達経路や発生源を、高周波で焼いていくのです。

 ―心房細動の治療ではどのあたりを。

 伴場 心房細動の9割は肺静脈付近に起因します。その口付近をそれぞれ円形に焼き、伝達を断ち切ります。

 ―一般の外科手術と違って患部を直接見られないから大変ですね。

 伴場 2方向からのレントゲン映像や心電図など各種モニターからの情報、そして手に伝わる感触。あらゆる情報を総合し、頭の中で心臓内部のイメージを描きながら治療を進めます。事前に撮ったCT画像から心臓の立体映像を描き出す3Dマッピングシステムなど、最新機器が手助けしてくれます。

 ―でも、このレントゲン映像を見ても背骨や心臓の輪郭らしきもの以外、よく分かりません。

 伴場 そうでしょうね。しかし経験を積むと、例えばこの患者では肺静脈がこのように走っていると。そういったことが把握できるようになります。

 ―やはり経験ですね。これまでの症例数は。

 伴場 2000年ごろからアブレーションを始め、今までに1500例ほどでしょうか。

 ―話が戻りますが、興奮の余分な伝達経路や起点がなぜできるのでしょう。

 伴場 心臓を形成する筋肉の並びが傷んでくるというか…。年を取ると皮膚にしわが寄るように。細胞の広がりの辺縁部に、この傷みが起きがちです。だから例えば肺静脈の口付近が心房細動の原因箇所になる。でも、不整脈の詳しいメカニズムはまだまだ分かっていません。

 ―不整脈につながる疾患や危険因子というのがありますね。

 伴場 そうです。加齢に伴いある程度発症しやすくなるのはやむを得ませんが、基礎疾患と危険因子への対処は大切です。私はいつも「加齢、高血圧、糖尿病、肥満、アルコール(酒)」と言っています。

 ―これらに十分対処せず、不整脈、ひいては脳梗塞を招いては大変ですね。ただ、治療法も日進月歩です。将来への期待は。

 伴場 アブレーションの時、心臓内部が直接見られるようになればうれしいですね。それと、例えば心房細動で原因箇所の9割は肺静脈と言いましたが、残り1割がある。上大静脈などですが、今は肺静脈付近をまず治療し、だめなら他の箇所を攻める手しかない。原因箇所が事前に特定できるようになれば、患者にとっても楽なのですが。

 ―なるほど。他にもありますか。

 伴場 患者と向き合えば私たちは精いっぱい治療します。しかし、病気はかかったら治せば良いというものではない。さっき言ったような基礎疾患や危険因子としっかり向き合い、病気にならないよう皆が気をつけてほしいと思います。

 ◇

 心臓病センター榊原病院(岡山市北区中井町2の5の1、086―225―7111)

 ばんば・きみかず 愛知県立千種高、岡山大医学部卒。神戸市立中央市民病院、倉敷中央病院、岡山大病院循環器内科、高知医療センターなど経て2009年から心臓病センター榊原病院勤務。内科部長。医学博士。日本循環器病学会専門医、不整脈専門医(日本不整脈心電学会)。44歳。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2015年12月21日 更新)

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