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変わる脳梗塞治療 川崎医大病院・木村和美教授に聞く 新薬で「治せる病気」に 2時間以内の受診鍵

木村和美教授

脳梗塞が疑われる症状(表)

 脳の血管が血の塊(血栓)で詰まる脳梗塞(こうそく)の治療が変わりつつある。血栓を溶かす新薬「tPA」が保険適用から一年で効果を上げているためだ。川崎医大病院(倉敷市松島)の木村和美教授(脳卒中科)は「これまで積極的な治療法がなかったが、治せる病気になった」と語っている。

 脳梗塞は動脈硬化や心臓から飛んできた血栓によって起き、血流が止まると脳細胞はすぐ損傷を受ける。亡くなるのは年八万人。木村教授によると、死亡は患者の一割弱で、ほかに三割がまひなどの後遺症で車いすの生活や寝たきりになってしまう。

 脳梗塞と、脳内の血管が破れる脳内出血、脳の血管にできたこぶが破れるくも膜下出血を合わせた脳卒中は、がん、心臓病と並ぶ日本人の三大死因の一つ。以前は脳内出血の死者が多かったが、食生活の変化などで脳梗塞が増え、今では六割を占めている。

 tPAは一九九一年に心筋梗塞の治療薬として承認され、昨年十月に脳梗塞でも承認された。それまで脳梗塞の治療は薬で脳を保護したり、再発を防ぎ、症状が落ち着くのを待っていたという。使用量の一割を静脈注射した後、残りを一時間かけ点滴する。

 川崎医大病院が十月までの一年間でtPAを投与した患者は二十二人。中四国の医療機関で最も多く、このうち九人は寝たきりになるのを防ぐなど症状が劇的に改善したという。残る患者は少し良くなった程度か効果がなかった。

 ただ、tPAは作用が強く、脳出血を招く危険がある。発症から時間がたつほど副作用の恐れは高まる。そこで、投与対象は発症三時間以内に限定。虚血部分が広範▽血圧が収縮期一八五以上、拡張期一一〇以上―などの患者には使用が禁止されている。

 承認後、副作用が疑われる症状で患者が死亡した例もあり、木村教授は「治療経験豊富なスタッフと設備が整った医療機関が行うべき」と言う。

 一方、患者にとって大切なのは「投与前の検査も考えると、発症二時間以内に病院へ着くこと」と同教授。倉敷市消防局と協議し昨夏、患者が指示通り両腕を伸ばせるかなど五項目の脳卒中チェック表を作成し、救急隊員に配布。その結果と発症時間を現場から連絡してもらっている。

 最近一年間に同病院を受診した脳梗塞患者のうち、発症後二時間以内に来院したのは18・8%。tPAを投与できたのは、この中から軽症や禁止項目のある患者を除いた8・8%だった。tPAを日本より早く使い始めた米国の2~3%と比べても体制が整ってきたという。

 脳梗塞になりやすいのは六十歳以上で、高血圧や糖尿病、不整脈などの患者。木村教授は「早く受診してtPAを使えれば、後遺症を残さず元の生活に戻れる可能性は高まる。症状があれば、すぐ救急車を呼んでほしい」と訴えている。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2006年11月14日 更新)

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