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(1)脳卒中とその危険因子 川崎医科大学 脳卒中医学教室教授 八木田佳樹

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八木田佳樹教授

 脳卒中は脳血管の異常によってさまざまな神経症状が急性に出現する疾患の総称で、主に脳梗塞、脳内出血、くも膜下出血のことをいいます(図1)。日常の中で突然発症し、後遺症が問題となることも多いため、患者ご本人はもちろん、ご家族や周りの方々にとってもつらい疾患です。

 社会や職場の中で要職にある人が発症すれば、影響は広範囲に及びます。治療法の進歩により脳卒中の死亡率は年々低下してきましたが、患者数としては300万人以上と推定されており、現在も増加を続けています。また脳卒中は要介護度5のいわゆる寝たきり状態になる原因疾患として最も多く、全体の3分の1を占めます。

 脳卒中はこのような性質の疾患ですが、近年その対策や治療法が大きく進歩してきました。このシリーズ「脳卒中診療の最前線」では、脳卒中に関する最近の話題について順次取り上げていきたいと思います。

 脳卒中の原因となる疾患や発症リスクにつながる生活習慣などを危険因子といい、これをうまく管理していくことが脳卒中発症予防のために重要です()。

 かつて死亡につながる重症脳卒中の多くは高血圧性脳内出血であり、これが脳卒中全体の死亡率を押し上げていました。しかし高血圧治療法についての情報が蓄積され、使いやすい薬が普及するにつれて死亡率は低下してきました。家庭血圧を定期的に測定し、高血圧が重症化する前に医療機関を受診する人が増えたことも脳内出血発症予防に役立っています。特に起床後だけ血圧が上昇する早朝高血圧といわれる状態がありますが、これは家庭で血圧を測定することで初めて発見できます。

 脳内出血に代わって増加してきた脳梗塞にはラクナ梗塞、アテローム血栓性脳梗塞、心原性脳塞栓症という主要な三つのタイプがあります(図2)。脳梗塞と一口で言っても原因となる疾患や血管が異なっており、再発予防のためにはそこを見極める必要があります。

 ラクナ梗塞は主に高血圧を原因として、脳の中の細い動脈である穿通枝(せんつうし)といわれる血管に不具合が起きて発症します。実はこの穿通枝の不具合は脳内出血の原因ともなるものです。アテローム血栓性脳梗塞は大動脈から脳に至る太い血管に動脈硬化が生じることが原因です。動脈硬化を進行させる高血圧、糖尿病、脂質異常症のほか、喫煙や過度の飲酒も危険因子です。心原性脳塞栓症は心疾患が原因であり、心臓から流れてきた血栓などにより脳血管がつまって発症します。

 最も多い原因は心房細動と呼ばれる不整脈であり、これは加齢とともに発症しやすくなるため、心原性脳塞栓症も年齢とともに増加します。心房細動は一過性のこともあります。心電図検査で正常と判定されたことがあっても、日ごろからご自身で脈をとってみて、脈の乱れをチェックすることが重要です。脈と脈の間隔が一定せず、バラバラな状態がしばらく続くのが心房細動の特徴ですので、そのような脈の乱れがあった時には医療機関に受診することをお勧めします。

 くも膜下出血は脳内出血と異なり、脳の表面を走る太い動脈にできた脳動脈瘤(りゅう)が破裂することで発症します。脳内出血では脳の中に血腫といわれる血の塊ができるのに対して、くも膜下出血では脳の表面に出血が広がります。破裂率は脳動脈瘤の場所、形、大きさによりさまざまなので、脳ドックなどで脳動脈瘤が偶然発見された場合には対応について医師と十分相談することが必要です。

 脳卒中は再発の危険性が高い疾患であり、10年間で40~50%の割合で再発するというデータがあります。再発予防のためにも、危険因子をうまく管理していくことが重要です。家庭血圧の測定や健康診断の利用で危険因子を発見し、危険因子管理のための治療を中断せずに継続することが脳卒中予防につながります。

 やぎた・よしき 香川県立高松高、大阪大医学部卒。大阪大付属病院神経内科・脳卒中科など経て2014年から現職。日本脳卒中学会専門医、日本神経学会専門医、日本内科学会総合内科専門医。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2016年01月18日 更新)

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