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受刑者の高齢化進む岡山刑務所 60歳以上3割、介護負担増

受刑者の高齢化が問題となっている岡山刑務所。対応を迫られている

 岡山刑務所(岡山市北区牟佐)で受刑者の高齢化が進んでいる。60歳以上が占める割合は約3割で、この20年で3倍程度に高まったとみられる。通院の付き添いなど刑務官の介護負担が増す中、将来的には通常業務に支障が出るケースも考えられ、対応を迫られている。

 「受刑者数は減ってきたものの、慣れない介護が増え、業務の負担は重くなっている」。岡山刑務所のベテラン刑務官は打ち明ける。

 岡山刑務所の受刑者数(年末時点、他施設への移送待ちなどを含む)は1995年に514人だったが、2006年に860人にまで増加。その後は減り、15年は585人。うち60歳以上(岡山刑務所本来の服役者のみ)の割合は95年(10・9%)、2005年(17・8%)、10年(25・7%)とアップし、15年は88歳の男性を最高齢に28・7%に上る。「受刑者数」と「60歳以上」で人数を把握する基準が異なるため単純比較はできないが、高齢化の進展ぶりを実態に近い形で表しているという。

 岡山刑務所は、殺人や強姦(ごうかん)など凶悪犯罪を起こした初犯の長期受刑者(刑期10年以上)が主な対象で、短期施設よりもともと受刑者が高齢化する傾向にはある。その上、裁判員制度の導入などで「(被害者感情を尊重した)近年の厳罰化の影響でさらに刑期が延び、高齢化に拍車を掛けているよう」と同刑務所。矯正施設の運営に詳しい龍谷大法科大学院の浜井浩一教授(犯罪学)は「高齢化社会を反映し、高齢者の殺人や強盗が増えていることも影響している」とみる。

入院の監視も 

 受刑者の高齢化に伴い、深刻化しているのが介護の負担の問題だ。

 岡山刑務所では、外部への通院が必要な受刑者がいれば刑務官らが病状に応じた受け入れ先を探す。一般患者とは別の出入り口や待機用の個室の確保を病院側と調整する役割も担う。

 通院は複数の刑務官が付き添い、1回に早くて2時間、時には1日近くかかる。多い日は数件の通院があるという。入院なら病室で24時間態勢の監視が必要で、交代を含めた多くの刑務官が刑務所内での業務から外れる。穴埋めのため、夜間に別の刑務官が呼び出されることも珍しくない。

 岡山刑務所は「さらに高齢化が進めば適切な介護ができず、通常の刑務官の業務にも影響が出る恐れがある」と危惧する。

福祉施設化 

 2015年版犯罪白書によると、14年に全国の刑務所に入った受刑者2万人余りのうち、65歳以上は10・4%で初めて1割を超えた。高齢化対策は、多くの刑務所に共通する悩みだ。

 こうした中、山口刑務所(山口市)は15年8月、介護士資格の取得を目指す受刑者向けの職業訓練を開始。円滑な社会復帰を後押しするだけでなく「資格取得者が増えれば所内で高齢受刑者の介護を担ってもらうことも考えたい」とする。法務省は高齢化が進む女子刑務所に14年から、それぞれの地域の医療や福祉の専門家を配置するモデル事業を始めた。

 岡山刑務所は08年から順次、高齢者がヨガ(年2回)やストレッチ・トレーニング(月2回)に励む健康講座を導入しており、より充実させたい考え。介護態勢の拡充に向け、今いる看護師資格の取得者(約10人)に加え、介護士、理学療法士などの資格を持つ刑務官の配置も目指す。受刑者の生活棟の大半は築後50年近く、手すりなどバリアフリー化が不十分として施設の改修も課題に挙げる。

 高齢者は再犯率が高く、出所後に犯罪を繰り返して服役期間が長期化するなど、全国では刑務所の「福祉施設化」も指摘されている。浜井教授は「高齢者が犯罪に手を染めることがないよう居場所や生きがいをいかに確保できるか。社会全体で考えるべき問題」と“所外”での対策の重要性を説く。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2016年01月18日 更新)

タグ: 介護

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