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(22)心疾患のカテーテル治療 岡山ハートクリニック 村上正明副院長

村上正明副院長

 ―心筋梗塞や狭心症の診断法は。

 村上 心筋梗塞は心電図でほぼ診断できます。狭心症は、レントゲンと負荷心電図といって階段を上り下りして波形に変化がないかどうかを一番に調べます。次に超音波で心臓と頸(けい)動脈の動脈硬化の具合をみます。さらに危険因子の多い人には冠動脈CTをします。この段階でほとんど鑑別できます。血管の詰まりが顕著ならばカテーテル治療やバイパス手術をします。ただ、中等度の狭窄(きょうさく)の場合はさらに、FFR(冠血流予備量比)といってどの程度の血流が阻害されているかを調べたり、血管内超音波でプラーク(脂の沈着物)の程度をみてどのような治療が必要か、もしくは経過観察で大丈夫かを見極めます。

 ―検査にはカテーテルを用いないのですか。

 村上 手足の血管から心臓までカテーテルを進めていく過程で、血管を傷つける可能性が存在します。またカテーテルに付いた血の塊が脳に飛んだり、血管壁の病巣の一部が脳内血管に詰まり脳梗塞を引き起こすリスクを抱えています。めったにないとはいえ、ゼロではない以上、当院では原則として検査だけのためにカテーテルは用いません。

 ―カテーテル治療の方法を教えてください。

 村上 最も基本的なのはバルーン(風船)治療といって病変部を単純にバルーンで膨らませる方法です。30年以上の歴史があります。しかし、これは3カ月ほどで4~5割の割合で再狭窄が起こるため、現在はほとんど行っていません。再狭窄を防ぐため、20年ほど前から金属製の筒を病変部に留置するステント治療が導入されました。これも6カ月ほどするとステントの網に肉が盛り再狭窄が起こりやすくなるため、10年ほど前にステントに抗がん剤や免疫抑制剤などを塗った薬剤溶出型ステントが導入され、現在はほとんどこれを選択しています。

 比較的新しい治療法のため長期成績に関する十分なデータはありませんが、治療から1~3年後の再狭窄率は5%程度です。ステントはどんどん改良されており、再狭窄のリスクはさらに下がっていくでしょう。

 ―薬剤溶出型は万能でしょうか。

 村上 薬剤溶出型ステントを入れた場合は、抗血小板剤といって血液をさらさらにする薬を最低3カ月は服用しなければいけません。そのため、別の部位での手術を控えている人などには適用できません。

 ―カテーテル治療の実績と、治療の際に注意している点は。

 村上 当院のカテーテル治療は年間350~400例です。私個人では累計で4千例ほど行っています。当院の入院日数は通常1泊2日です。治療の際に最も神経を使うのは冠動脈から分岐するいくつもの枝血管をつぶさないことです。直径3ミリほどの冠動脈内で無理にバルーンで拡張すると、枝がつぶれて心臓に酸素が供給されなくなるのです。事前に毛髪みたいに細いガイドワイヤを枝の血管に通しておいたり、バルーンで少し拡張しておいたり、大きな血管であればステントを留置するなどして、リスクを回避することを心掛けています。

 ―発見が遅れて石灰化したり完全に閉塞してしまった病変の治療は難しくないですか。

 村上 そのような場合はスコアリングバルーンといって先端にワイヤが付いた特殊なカテーテルで病変に切り込みを入れながら、一般的なバルーンよりも血管に負担を掛けずに狭窄したところを拡張します。

 ―治療後の心臓のリハビリも重要と聞きます。

 村上 かつては心臓の悪い人はできるだけ安静にしておくべきという考えでしたが、早期からのリハビリが心機能の回復に効果があることが分かり、ここ数年、心臓リハビリが急速に普及しています。当院では退院前に必ず自転車のペダルをこぐ有酸素運動に取り組んでもらっています。日常生活への不安がなくなるまで、退院後も通院してリハビリを続ける患者さんもいます。

 ―心筋梗塞を予防するために心掛けることは。

 村上 高血圧、悪玉コレステロール、喫煙の三大危険因子をなくすことが予防の大前提です。心筋梗塞は自覚症状がなく、ある日突然発症するケースが多いです。また、胸ではなく、胃や肩、腕などが痛むこともあるので、なかなか異常に気付きにくいのです。危険因子のある人は一度、心臓ドックを受けることを勧めます。

 ―自覚症状に乏しくてはなかなか予防できないのでは。

 村上 ある程度はセルフチェックができます。たとえば、夫婦で散歩をしているときにどちらかがスピードに付いていけなくなったとか、坂道で非常に息が切れるようになったといった症状が現れれば心筋梗塞の前段の狭心症が疑われます。「少ししんどいな」と感じても少し休めば元に戻るのも狭心症の特徴です。「大したことない」と勝手に思い込まずに、一度、受診してください。

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 岡山ハートクリニック(岡山市中区竹田54の1、(電)086―271―8101)


 むらかみ・まさあき 金光学園高、愛媛大医学部卒。岡山大病院、国立岩国病院(現国立病院機構岩国医療センター)、心臓病センター榊原病院などを経て、2009年から岡山ハートクリニック勤務。12年から現職。医学博士。日本内科学会認定医、日本循環器学会専門医、日本心血管インターベンション治療学会専門医・指導医、日本医師会認定産業医。50歳。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2016年02月01日 更新)

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