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肝胆膵のがん治療について 岡山済生会総合病院2氏に聞く

三村哲重院長代理

 岡山済生会総合病院(岡山市北区国体町)は、がん診療、特に消化器系のがんに強いことで知られる。同病院に新病院が完成し、1月から診療が始まった。消化器外科の中でも難しいとされるのが「肝胆膵」と総称される肝臓、胆道(胆管・胆のう)、膵(すい)臓の治療。この肝胆膵のがん治療について、真新しい新病院で、三村哲重院長代理、仁熊健文肝胆膵外科部長・診療部長に聞いた。

「胆膵」の早期診断ケース増加 三村哲重院長代理

 ―肝胆膵がんの年間の手術実績は。

 毎年約150~160件で、中四国では屈指の実績を誇る。内訳は肝臓が約6割、胆道がん(胆のうがんと胆管がん)と膵臓がんが4割。肝臓がんはラジオ波治療という選択肢もあるが、胆道がんと膵臓がんの根治には外科手術しかない。ただし、胆道がん、膵臓がんとも病期が最も進行した段階(ステージIV)で、主要な動脈への浸潤や大動脈の周囲までリンパ節転移があったり、肝臓に転移したり、腹膜播種(はしゅ)といっておなかの中に飛び散ったりしていれば、手術を断念せざるを得ない。胆道がんは3分の2以上の割合で手術が可能だが、膵臓がんで手術が可能なのは全症例の3割しかない。

 ―胆道がん、膵臓がんは治りにくいがんの代表格だ。手術による5年生存率はどの程度か。

 実は胆のうがんは早期発見すればほぼ全例治る。しかし、浸潤すれば極端に予後が悪くなるのが特徴で、当院でもステージIVaの5年生存率は20%余りに低下、IVbになると生存はゼロだ。胆管がんは胆のうがんほどではないが、それでもステージIVaの5年生存率は約40%、IVbは約20%しかない。膵臓がんはIII以上にまで進行した症例が圧倒的に多く、5年生存率はステージIIIで約35%、IVaで25%、IVbになると5~6%程度と非常に厳しい。

 ―さらに、膵臓がんは再発率も高い。

 術後補助化学療法という抗がん剤治療が再発を抑えるのに有効だ。2003年から保険適用された比較的新しい治療法で、現在、保険適用可能な組み合わせが増えている。先ほど、IVaの手術だけの5年生存率が25%程度と言ったが、これを併用すると40%にまで向上。膵臓がんも治せる時代になってきたのだ。

 ―胆道がん、膵臓がんとも手術には非常に高度な技量が必要だと聞く。

 胆道がんの中では、胆管が肝臓に入る部分にできる肝門部胆管がんが最も難易度が高い。これは肝臓の一部と胆管・胆のうを切除し動脈を再建したり、小腸を使って胆道を再建するため、平均で10時間近い大手術になる。肝臓を大きく切除するので肝不全で死亡するリスクが5%程度ある。われわれは肝不全の予防のために門脈塞栓術といって、術前に切除する側の肝臓へ栄養を送っている門脈をふさぎ、肝臓の残すところを大きくする処置をしている。

 また、肝門部から胆管、胆のうという膵頭部にがんが広がっている場合は、肝臓と膵臓、十二指腸、胃と小腸の一部まで切除し、胆汁と食物の通り道を再建する肝切除と膵頭十二指腸切除をする。膵臓からは膵液、胆管からは肝臓でつくられた胆汁が消化液として分泌されており、肝臓と膵頭部を切除した後、それらが再び腸の中を流れるように小腸の一部を切って通り道を作り直す。難易度はさらに高くなり、体力のない高齢者には適用できない。膵頭十二指腸切除だけでは膵液が漏れて動脈から出血が起き死亡するリスクが1~2%ある。膵臓の裏にある門脈の再建はわれわれ外科医でできるが、肝動脈の再建は形成外科医にお願いしている。

 ―どうすれば早期発見できるか。

 胆道がん、膵臓がんとも自覚症状がほとんどなく、危険性を予見することは不可能に近い。しかし、近年はMRCPという胆管・膵管撮影装置や造影剤を使ってのCT、さらにERCPという内視鏡などを駆使して、早期に診断できるケースが増えている。また、胆のうに胆石症や小さい腫瘍性ポリープのある人は経過観察し、腫瘍が1センチより大きくなるとがんの恐れがあるため、胆のうを摘出する。かかりつけ医から紹介され、検査を受ける人は増えており、早期発見につなげていきたい。

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※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2016年02月01日 更新)

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