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(7)リウマチライフを活き活きと! 倉敷スイートホスピタル理事長 江澤 和彦

倉敷スイートホスピタルの「リウマチ教室」。次回は3月2日午後に開催。参加自由

江澤和彦理事長

 シリーズでお伝えしてきました関節リウマチ治療の特集の最終回です。これまで、関節リウマチの病気メカニズム、診断と治療(薬物療法・手術療法)、リハビリテーション、看護ケア、社会保障制度などについて掲載させていただきました。今回は、治療を受ける患者さんの立場に立って考えてみたいと思います。

▼飛躍的に治療が進歩したリウマチ治療  

 私が医師になって30年近くになりますが、関節リウマチの治療は飛躍的に進歩しました。以前では想像もしなかったほど、関節の腫れや痛みを封じ込め、関節の破壊を抑えることも可能となってきました。特に複数の生物学的製剤の登場により、一部の患者さんでは、破壊された骨が修復される現象も認められるなど、最近10年余りは関節リウマチ治療の革命期とも称されています。

 リウマチは早期に診断し早期から治療を開始することが標準となり、進行している患者さんでも膝や股関節といった大きな関節は日常の生活に大きく影響するので炎症を抑えることが主眼に置かれます。当院も一人一人の患者さんの治療成績を基にした臨床データベースを活用し、各種治療法の評価を行うなど、科学的根拠に基づいた診療を実践しています。

 課題は、生物学的製剤が非常に高額で、患者さんに負担が重くのしかかっていることです。先発医薬品よりも安いバイオシミラーと呼ばれる後発医薬品も徐々に増えていますが、特に低所得者の方などへの一刻も早い対策が望まれます。

▼患者さんも治療に積極的参加を   

 一方で、残念ながらリウマチの患者さんの全てに効果のある夢の薬はまだ存在しません。内服薬の中心的存在であるメトトレキサートや生物学的製剤は若干の免疫力の低下が懸念されます。やむを得ず使用するステロイドも骨が脆(もろ)くなったり、免疫力が落ちたりします。一般的に治療効果の高い薬ほど副作用も多くなる傾向にあります。

 最近、患者さんも積極的に治療に参加しましょうということが唱えられています。自分の病気の特徴や治療薬について知ることは、とても有益です。身近な家族の方に知ってもらうことも治療に役立ちます。治療方法について、主治医に任せるだけでなく、患者さん自身も一緒に考え納得して治療に参加し、主治医とパートナーシップを築くと治療効果がより一層向上します。

 リウマチの関節破壊は、炎症の程度と持続期間によって決まります。症状の悪い期間をいかに短くするかが治療のポイントです。手洗いやうがいを心がけて感染症を予防し、インフルエンザや肺炎の予防接種で重症化を防ぎ、異変があればすぐに主治医に相談することで副作用の多くは対処可能です。ステロイドで骨が脆くなるのを抑える薬もあります。1回きりの大切な人生を有意義に過ごしていただくことが私たちの願いです。

▼なるべく自分のことは自分で        

 なるべく普通の暮らしを心がけましょう。食事は、バランスよく栄養を摂(と)り、骨が脆くならないようにカルシウムやビタミンDをしっかりと摂る工夫を考えます。牛乳・ヨーグルト・チーズなどの乳製品はカルシウムの吸収率が高く、効果的です。納豆に多く含まれるビタミンKも骨を強くする作用があります。サプリメントなどで葉酸を摂りすぎると治療薬のメトトレキサートの効果が弱くなるので注意してください。入浴は、ぬるま湯にゆっくりつかってリラックスすることもよいでしょう。炎症を起こしている関節に熱を与えることは控えてください。炎症が強い時は安静が必要ですが、適度な運動を生活に取り入れることは大切です。

 人に頼らず、なるべく自分のことは自分でするという姿勢をもちましょう。福祉制度なども積極的に活用すべきですが、あくまで自分の人生の支えとなる補助的なものです。もし、ハンディキャップがあっても気持ちの持ち方次第で社会参加の多くは可能となります。たとえ障害があっても自分で身の回りの生活ができる施設や福祉用具を私も開発してきました。いろいろと工夫を凝らすことも試みる価値があります。

▼有意義な人生を大切に 

 リウマチではない私がリウマチの患者さんの心がけについて述べることは、甚だ失礼なことと存じますが、長年リウマチ診療を続けてきた経験から考えてみたいと思います。リウマチに罹(かか)ってしまったことはとてもつらい現実ですが、たった一度の人生をどう過ごすかを前向きに考えていくことはとても大切です。

 リウマチのように慢性的に痛みを伴う病気に罹ると、誰もが憂鬱(ゆううつ)な気分に陥りがちです。しかし、滅入ってばかりいては扉を開けません。心の底から笑っている時や何かに夢中になっている時には、多幸感を促す脳内ホルモンの影響もあり、不思議と痛みを感じないものです。調子のよい時には、積極的にお出かけをしたり、趣味に興じたり楽しく過ごしてみてはいかがでしょうか。人や社会に役立つ活動も自らを幸せにしてくれます。

 リウマチの患者さんの友の会や病院のリウマチの集いなどは、リウマチを抱えたご本人やご家族との出会いの場となります。リウマチになったからこその出会いです。心から共感することで、少しでも痛みがやわらぐこともあるでしょう。私も患者さんからたくさんのことを教えていただきましたし、何よりも患者さんの気持ちを理解することが診療の第一歩となります。日々、自分らしく活(い)き活(い)きとしたリウマチライフのために、あせらず、ゆっくりと、そして一歩一歩着実に、歩んでいきましょう。



 倉敷スイートホスピタル(電話:086―463―7111)

 えざわ・かずひこ 岡山大安寺高、日本医科大、岡山大大学院医学研究科卒。岡山大医学部第三内科、倉敷広済病院を経て1996年医療法人和香会(倉敷市)・医療法人博愛会(山口県宇部市)理事長。2002年社会福祉法人優和会理事長。日本リウマチ学会評議員・指導医・専門医、日本内科学会認定内科医、岡山大医学部臨床教授、労働衛生コンサルタント(保健衛生)。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2016年02月01日 更新)

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