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(4)乳がんの手術療法 岡山大学病院 乳腺・内分泌外科教授 土井原博義

土井原博義教授

【表1】

【図4】乳がん手術法の推移

 乳がんの手術は大きく(1)乳房温存療法(2)乳房切除術に分けられます。基本的にどちらの手術を受けても生命予後は同じであることは臨床試験で証明されています。さらに、乳房切除術を受けた場合は希望により乳房のふくらみを作る(3)乳房再建術が行われます。またまだ臨床試験中、研究段階ですが、腫瘍径1・5cm以下の早期乳がんに対しては乳房皮膚にメスを入れない(4)ラジオ波熱焼灼(しょうしゃく)療法(RFA)も行われています。それぞれの手術方法の手技について利点、欠点を含めて説明します。

(1)乳房温存療法 (図1a)

 がんの大きさが3cm以下、大きな乳房では4cm以下であれば乳房温存療法を受けることができます(がんが多数あったり、広範な乳管内病変の所見があるものは除く)。この手術方法は腫瘍縁から1~1・5cm離して切除する円状部分切除と乳腺の約4分の1を切除する扇状切除があり、原則として残った乳腺には放射線治療が25~30回必要です。

 自分の乳房が残ることにより、乳房切除術に比べて美容上良好で精神的苦痛も少ないです。ただ、残った乳腺から再発したり(局所再発)、新たな乳がんができることもあるので(5~20%)、毎年マンモグラフィー、乳腺超音波などによるチェックが必要になります。またがんが大きくて乳房温存療法の適応が無くても術前に抗がん剤投与を行い、小さくすることで乳房温存療法が可能になることもあります。なお遺伝性乳がんの場合はがんが多発したり、局所再発率が高いといわれているので乳房切除術が勧められます。

(2)乳房切除術 (図1b)

 がんの大きさが3~4cm以上で発見された場合は乳房切除術が行われます。この手術方法は、がんとともに乳頭、乳房皮膚を含めて乳腺をすべて切除する方法ですが、筋肉は残すので上肢の機能障害はほとんどみられません。さらにがんの大きさが5cmを超えたり、わきのリンパ節に転移があるような場合は放射線治療の追加が必要になります。

 乳房切除術は乳房が無くなるので美容上の満足度は低いですが、局所再発率は2・3~18%で乳房温存療法より低率になっています。また後述の乳房再建術を希望する場合は、乳房皮膚を温存して乳頭、乳輪を含めて乳腺切除する方法(皮膚温存乳腺全摘術)や乳頭、乳輪、皮膚をすべて温存して乳腺切除する方法(乳頭温存乳腺全摘術)も行われています。

(3)乳房再建術 (図2)

 乳房再建術は手術時期によって乳房切除と同時に行う一次再建(同時再建)と、時期をかえて行う二次再建(異時再建)に分けられます。さらに、自分の体の一部(広背筋、腹直筋、腹壁脂肪など)を使う自家組織再建とティッシュ・エキスパンダー(医療用風船)やシリコンを使用する人工乳房(インプラント)再建に分類されます。

 自家組織と人工乳房による再建を比べると、自家組織の方が手術時間および入院期間は長く、また乳房以外の健常部にもメスが入るという欠点はありますが、感染に強く、長期的な安全性は保証されており、人工乳房のように毎年の検査は必要ありません。なお整容性には大きな違いは無く、どちらも保険診療で行われます(表1)。どちらの方法を選ぶかは乳がんの大きさ、残存した組織の量、健側の乳房の大きさ、さらに体型や職業など、患者さんの希望まで考慮して決定します。

(4)ラジオ波熱焼灼療法 (図3)

 RFAは超音波ガイド下でがんの中央部を専用の針(クールチップニードル)で穿刺(せんし)、5~20分の焼灼でがんを殺すという方法で、乳房皮膚には針穴だけでメスが入らないため、美容上は他の手術方法に比べて大変良好です。術後は乳房温存療法と同様に放射線治療が25回必要となります。

 現在、この手術方法は先進医療B(臨床試験)で行われていますが、適応はやや厳しく、がんの大きさが1・5cm以下で放射線治療が可能であること、十分焼灼できたかどうかの確認のため、放射線治療終了後針生検による組織検査が必要であるとなっています。また局所再発確認のために年1回の定期的なMRI検査、マンモグラフィー、乳腺超音波検査が必要です。なお、頻度は低いですが皮膚熱傷や乳頭陥凹などの合併症がみられることがあります。

最後に

 乳がんの手術は1890年代初頭、アメリカ人のハルステッドによって始まりましたが、当時は乳房とともに筋肉(大胸筋、小胸筋)、わきのリンパ節も切除しており、術後しばしば腕のリンパ浮腫、機能障害がみられました。約100年の歴史を経て胸筋温存乳房切除、そして現在乳がん手術の約60%を占める乳房温存療法に変わり、乳房再建術も増加してきています(図4)。いずれの手術を行っても再発、生存に関しては同じであることが臨床試験で証明されていますのでさらに今後は美容、QOL(生活の質)も考慮した手術方法が重要になると考えています。


 どいはら・ひろよし 岡山操山高、岡山大医学部卒。岡山市民病院、国立病院四国がんセンターを経て岡山大第二外科(現呼吸器・乳腺内分泌外科)。医学博士。日本外科学会専門医・指導医、日本乳癌学会専門医・指導医、がん治療認定医、甲状腺・内分泌外科専門医。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2016年02月01日 更新)

タグ: がん女性岡山大学病院

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