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がん粒子線治療 病巣狙い撃ち、少ない副作用 菱川院長(兵庫県立医療センター)岡山で講演 

菱川良夫院長

兵庫県立粒子線医療センターの粒子線治療室。患者はベッドに横になって、陽子線の照射を受ける(同センター提供)

 がんの放射線治療で、通常のエックス線の代わりに粒子線を使う「粒子線治療」が広まりつつある。病巣を狙い撃ちでき、副作用を抑えられるのが特徴。2001年の開設以来、約1300人に行った兵庫県立粒子線医療センター(同県たつの市)の菱川良夫院長が岡山市柳町の山陽新聞社さん太ホールであった医療セミナーで講演。「体を切らない患者に優しい治療。前立腺、肝臓、肺がんは治療成績も手術に劣らない」と成果を紹介した。


 放射線治療は手術、抗がん剤治療と並ぶがん治療の柱。放射線を体外から病巣に照射し、がんを退治するが、放射線は正常な組織も傷つける。エックス線は体内を進むにつれ線量が弱まり、がんへの効果は薄れ、病巣前後の正常な組織にも悪影響を与える。

 一方、粒子線も放射線の一種だが、「ある深さにたどりつくとエネルギーを一気に出し消える」(菱川院長)という特性がある。このため、がんに効果を集中させるのが容易で、周辺組織に強い副作用を起こさない。

 国内の粒子線治療は一九九〇年代末に本格化。粒子線のうち、水素の原子核の流れである陽子線か、炭素イオン線(重粒子線)が使われている。同センターは両方を備える唯一の施設。陽子線を基本に、放射線抵抗性の強いがんなどに炭素イオン線を用いている。

 治療患者は、臨床試験を終え一般診療を始めた二〇〇三年の百八十人から年々増加。今年は四百人を超す見込み。前立腺がんが半数を占め、頭頸(とうけい)部・頭蓋底がん、肝臓がん、肺がんが一~二割ずつ。骨軟部腫瘍(しゅよう)なども治療している。

 治療後の四年生存率(今年一月現在)は、前立腺がん98%▽肝臓がん60%▽早期肺がん75%▽頭頸部がん36%―など。菱川院長は「早期がんは良好。頭頸部はほとんどが進行がんで成績が劣るものの、他に治療法のない患者が多い」と治療の意義を語った。

 同センターは粒子線治療だけを行う施設で、治療を受けるには主治医の紹介が必要。治療準備に一週間程度かかり、その間に患者は検査を受け、結果を基に同センターの医師が治療計画を立てる。

 粒子線照射は平日は毎日行っており、患者は計画に沿い四~三十七回の照射を一週間から一カ月半かけ受ける。治療は一回三十分程度で、うち粒子線照射は一分ほど。通院治療も可能。治療終了後は紹介元の主治医に通院し経過を観察する。

 ただ、「すべてのがんに効くわけではない」と菱川院長。対象は転移のないがんに限られる。また、食道、胃、大腸など消化管のがんは粒子線を照射すると穴が開く恐れがあり、治療できない。

 問題は患者負担が高額なこと。粒子線治療は加速器という大がかりな装置が必要で、同センター整備には装置だけで二百億円以上かかった。さらに、公的医療保険がまだ適用されない。同センターは厚生労働省から先進医療の承認を受け、入院・検査料は保険が効くものの、全額自己負担の二百八十八万円の粒子線治療料を含め患者負担は一連の治療につき三百万円に上る。

 菱川院長は「治療がさらに普及すれば、頭頸部がんは保険診療にしてほしい」と語っていた。

 セミナーは三井住友海上火災保険岡山支店が社会貢献活動として開催。保険代理店や顧客、一般市民約三百人が聴講した。




国内の粒子線治療施設

 【陽子線】
国立がんセンター東病院(千葉県柏市)
筑波大(茨城県つくば市)
若狭湾エネルギー研究センター(福井県敦賀市)
静岡がんセンター(静岡県長泉町)

 【炭素イオン線】
放射線医学総合研究所(千葉市)

 【陽子線・炭素イオン線】
兵庫県立粒子線医療センター(同県たつの市)


 ひしかわ・よしお 1949年和歌山県生まれ。神戸大医学部卒。兵庫医大病院で放射線治療に当たった後、兵庫県庁で粒子線治療施設の整備にかかわる。2001年から現職。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2006年12月19日 更新)

タグ: がん健康医療・話題

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