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万成病院 多職種が連携、地域と歩む

患者(手前の2人)にリハビリを指導する石丸看護課長(右から2人目)ら

内視鏡で嚥下機能を調べる小林歯科医長

小林建太郎 理事長・院長

高橋弘美医師

 「私達は、地域の皆さまの保健、医療、福祉の向上に貢献します」。病院の理念のいの一番に掲げられた誓いの言葉。精神科病院として岡山県内有数の歴史と規模を誇る万成病院の特長は、全スタッフが一丸となって患者を支える温かさと、精神疾患への偏見をなくすために自ら地域に溶け込んでいくしなやかさだろう。

 疾患そのものは薬物治療で軽快させることができたとしても、そこで医療が完結するわけではない。社会復帰への不安や身近な人々との絆の修復に悩む人は少なくなく、認知症の人はこれまで普通にこなしてきたことができなくなっていくことや記憶の衰えに不安を抱えていたりする。「こうした人たちを地域の協力を得て支えていく社会にしたい。そのために努力するのが在るべき病院の姿だ」。小林建太郎理事長・院長が強調する。

 近年は認知症の患者が増え続けている。残念ながら認知症を根治する薬はまだないが、いくつかのきめ細かい対応を工夫することで、周囲を困らせる問題行動を改善させることに成果を上げている。

 まず最初に行うのは患者が服用している薬のチェック。内科的な治療薬の中には副作用で認知機能の悪化やせん妄を引き起こしている可能性があるものもあり、健康や体調を勘案しながら薬を減らす。診察の時は患者に優しく語りかけ、安心感を与えられるように気を配る。入院患者は束縛せずに自由に過ごしてもらう。日中なら院内での徘徊(はいかい)も大声を出すのも自由だ。

 こうした配慮によって、かなりの確率で暴れたり騒いだりする症状が収まり、早期に退院できるという。

 高橋弘美医師は「どんな患者さんにも感情や自尊心は必ず残っている。一人一人の尊厳を守ることが医療の大前提」と話す。

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 患者のQOL(生活の質)を左右する口腔(こうくう)ケアにも万全を期す。1987年に歯科を開設し、7人の歯科医がいる。専用の内視鏡で嚥下(えんげ)機能を調べ、言語聴覚士による機能回復のリハビリなどを行う。自力で食べやすいように改良されたスプーンや皿を使ったりする。

 自分の歯で食べ物をかんで飲み込むことは脳に刺激を与え認知機能の維持に好影響を及ぼす。逆に、その機能が衰えると体のバランスが悪くなり、生活レベルが低下する。治療薬の中には副作用で嚥下障害やドライマウスを引き起こすものもあり、誤嚥性肺炎などにならないように気を使う。

 小林直樹歯科医長は「アルツハイマー型、レビー小体型、前頭側頭型など、認知症の原因疾患によって食事の仕方に特徴があり、一人一人が自力で食べられるようにサポートしている」と言う。

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 「こんにちは。お足元が悪い中、ありがとうございます」

 2月下旬のある土曜日。病院近くの谷万成公会堂。医師、看護師、作業療法士、管理栄養士らがお年寄りたちを出迎え、ひき立てのコーヒーやお茶を振る舞った。認知症への理解を深めてもらう狙いで開いた地域交流カフェ「こだま」。昨年11月に続く2回目で、この日は、安田華枝医師と高橋医師が認知症の症状などを分かりやすく講演。簡易な認知能力の検査もした。国が普及に力を入れる認知症カフェの一種といえ、4月からは毎月開催する。

 発案者の石丸信一看護課長は「住民同士、住民とスタッフが互いに顔見知りになり、ともに支え合う地域をつくりたい。困ったことがあれば何でも気軽に病院に相談してもらえるような身近な存在になりたい」と話す。

 生涯学習講座や認知症予防の体操を主催したり、町内会長や民生委員らと地域の課題や活性化策を話し合うなど、地域連携の取り組みは多岐にわたる。昨年は、スポーツを通じた元気な岡山づくりに貢献するために「万成地域スポーツ功労賞」を創設した。病院単独としては岡山県内ではほとんど前例のない取り組みばかりだ。

 小林理事長・院長は「超高齢化社会を迎え、“治す医療”から“支える医療”へと医療ニーズが変わりつつある中、全スタッフが他の職種の人から学ぶことによって幅広い視野を持つジェネラリストになるよう研さんを重ね、地域の期待に応えていく」と話している。

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 万成病院(086―252―2261)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2016年03月07日 更新)

タグ: 精神疾患万成病院

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