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常識のわな 岡山済生会総合病院院長 山本和秀

 私たちは立派な大人になるために、社会人としての常識を持たなければならないと教えられてきました。常識とは、社会の構成員が有していて当たり前のもの、価値観、知識、判断力などのことです。

 ところが、科学や研究の世界では、先行研究の成果や一般的常識を疑うことから第一歩が始まります。研究は現在解明されていないことを明らかにする、できていないことを可能にしようとするわけですから、従来の思考や常識の延長線上からは新しい成果は生まれてきません。研究を行う過程では、他人の説を信用しない、うのみにしない、なぜ?どうして?という自分オリジナルな疑問を持つことが大切です。その上で、その疑問を説明できる仮説を考え、実証していきます。

 翻って一般社会のことを考えますと、常識や従来の踏襲を大切にした方が良い場合と、そこから全くかけ離れたアイデアや発想を要求される場合があります。社会や会社が安定的に成長している場合は常識路線で問題ありませんが、先行きの不透明な時代やパラダイムシフトが起こっている時代には、後者が大切になってきます。

 子供から答えに窮する質問を受けた経験をお持ちの方は多いと思います。しかし大人になって、なぜ?どうして?という疑問を持つこと、持ち続けることは簡単なようで難しいことです。皆さんも子供の時には同じような質問をしていたはずですが、常識が増えるにつけその疑問を持たなくなっています。大人にとって疑問を持ち続けることは思考的に難しいことで、手っ取り早く何らかの解答を得たいと思い、常識的な、あるいは従来の説明を受け入れてしまう傾向があります。

 先行き不透明な時代、なぜ?どうして?という疑問を持つこと、また解答が得られない場合はペンディング(保留)として持ち続けることが大切です。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2016年03月24日 更新)

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