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(1)成長曲線を描こう 岡山済生会総合病院小児科診療部長 田中弘之

田中弘之・岡山済生会総合病院小児科診療部長

 春は新入学、進級の季節で、周りの子どもと比べ体の大きさが気になるようで、私の外来も、成長について相談に来られる方がふえます。この欄では子どもの成長について知っておいていただきたいことを3回にわたって書いていきたいと思います。初回のテーマは「成長曲線を描こう」です。

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 体が小さいとはどういうことでしょうか? 身長にも体重にも個人差があり、身長が低いことは個性なので医者にかかる必要はないと言われる方がおられます。これはある意味真実ですが、身長が標準より著しく低い場合には低いということだけでさまざまな不利益を被ります。実際、自動車の運転免許を普通に取得するためには身長は140cm必要です。

 身の回りのものはほとんどが標準的な身長に合わせて作られているので、身長が低い場合には使いにくくなります。また、子どもの時期には体が小さいというだけでいじめの対象になることもありますし、子ども自身も劣等感を抱くこともあります。ですから、身長が著しく低いことだけでも健全な子どもの成長には妨げになるわけです。

 では、著しく身長が低いということはどういった状態を指すのでしょうか? この点をはっきりさせておく必要があります。このために使うのが標準成長曲線です(図1)。

 お子さんの身長をこのグラフの中に印をつけてみてください。その点が、一番下のライン(マイナス2SD)より下にあるならば低身長、つまり標準と比べて著しく低いということになります。この一番下のラインは健康な同性の同じ誕生日の子ども100人を身長の順に並べたときに、1―2番に相当する身長です。

 さて、今は身長が低くてもこれから大きくなるかもしれないし、体が小さいだけで他に異常がなければわざわざ病院に行かなくてもと考えられるかもしれません。これは非常に正しい考え方です。子どもは成長するものです。だから、他に異常がなければ標準成長曲線に平行して大きくなっていきます。一方、低身長が他の病気のひとつの症状として現れている場合には、標準成長曲線からどんどん離れていきます。

 大事なことは、先に述べた成長曲線に健診や幼稚園や学校で測定されたお子さんの身長を記入して、正常な成長をしているかどうかをみていくことなのです。図2に専門医にかかった方が良い成長曲線のパターンをまとめておきます。

 特に注意していただきたいのは、思春期年齢になっていないのに身長が急に伸び出すパターンです。図3をみてください。この図は正常な子どもが1年間に何cm伸びるかを示す標準成長率曲線と呼ばれるものです。生後1年で25cm身長が伸びます。その後、年間身長増加率は年齢とともに急激に低下していきます。3歳を過ぎると年間身長増加率の低下は緩やかになりますが、それでも思春期の手前までコンスタントに低下していきます。

 つまり、正常な成長においては前年の身長増加率を上回る身長増加が見られるのは思春期の時しかないのです。従って、先に述べたような状態は思春期が早くに始まって早くに身長の伸びがとまってしまう思春期早発症という状態の可能性があるのです。

 このように、身体計測の結果を成長曲線にすることは、子どもの成長を見守るためにとても大事なことで、全てのお子さんで実践していただきたいことです。さあ、今日からお子さんの成長曲線を作ってみませんか?

 ◇成長曲線を描くサイトは以下のサイトで利用できます◇

 子どもの成長ホルモン治療
  http://jcrgh.com/kodomo/
 成長障害、低身長のお子様のための相談室
  http://www.nordicare.jp
 Growing club
  https://www.growthhormone.co.jp/growingclub/
 成長障害情報サイトおおきくなあれ
  http://www.ookikunaare.com/
 成長ホルモン治療ナビ
  http://www.g-hormone.com/

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 岡山済生会総合病院(086―252―2211)

 たなか・ひろゆき 奈良県・東大寺学園高、大阪大医学部卒。1987年より2年間米国・ワシントン大に留学、90年より岡山大医学部小児科、2007年より現職。小児科学会専門医、内分泌代謝科(小児科)専門医。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2016年04月04日 更新)

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