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(2)成長障害の原因 岡山済生会総合病院 小児科診療部長 田中弘之

 身体が小さいといって病院に来られる方の多くが、同級生に比べて小さいことを気にして来られます。でも、子どもは1年間に5cm程度大きくなるわけですから、成長曲線を描いて月齢も含めて同い年の子どもと比較することが重要です。

 特に、(1)2歳ごろから低身長(2)小さく生まれて成長が追いつかない(3)ある時点から急に成長率が低下(4)思春期年齢になっても成長率が増えない(5)思春期年齢未満で急に成長率が増加する―の五つのパターンは、専門の医師にかかっていただきたいのです。

 今回は、このおのおのの成長パターンとなる原因を述べていきます。なお、(5)については前回説明していますので、ここでは残り四つの状態について説明します。

(1) 2歳ごろから低身長

 2歳ごろから低身長の程度が強くなる場合は、成長ホルモンの分泌が悪くて低身長になっていることが強く疑われます。3歳ごろまでの子どもの成長を支えるのは栄養状態と甲状腺ホルモンです。成長ホルモンが成長にとって重要になってくるのは2歳以後のことになります。このため、成長ホルモン分泌が不足している場合には2歳ごろから成長障害がはっきりとしてきます。逆に2歳以前に成長障害がある場合には、栄養の問題や甲状腺ホルモンの不足を原因として考えることになります。

 成長ホルモンは脳下垂体と呼ばれる小さな臓器から分泌されます。昔は骨盤位分娩や仮死によって受けた脳下垂体の傷が原因となって成長ホルモン分泌が悪くなるケースが多かったのですが、お産の管理の進歩によってこのようなケースは少なくなり、現在では原因の分からない特発性と呼ばれるものが大半を占めるようになってきました。しかし、まれに昔のような原因で起きるものや、遺伝子の異常によって起きるものもあります。

(2) 小さく生まれて成長が追いつかない

 妊娠週数に比べ低体重・低身長で生まれてきた子どもの大半は3歳までに普通の体格に追いつきます。しかし、約1割の子どもは同年齢の子どもに比べて小さいままで経過することが知られています。このような状態をSGA性低身長症といい、一定の基準を満たした場合には健康保険で成長ホルモン治療を行うことができます。

(3) ある時点から急に成長率が低下する

 子どもは常に成長しています。ですから、何か身体に具合の悪いことがあれば、その成長は必ず停滞します。この状態は身体的なものだけに限らず、精神的なストレスでも起こります。この極端な例は被虐待児で、虐待を受けている子どもは大きくなることができません。

 身体的な問題で一番注意しなければいけないのは脳下垂体およびその周辺の腫瘍です。この場合には腫瘍によって他の脳下垂体のホルモンも不足してきたり、腫瘍自体の大きさによって周りの神経が障害されたりするので、いろいろな症状を伴ってきます。もうひとつ身体的な問題で注意する状態は、甲状腺ホルモンの不足です。甲状腺ホルモンの不足状態はなかなか症状に現れません。成長の停滞で初めて気づかれることもあります。

(4) 思春期年齢になっても成長率が増えない

 思春期になると成長率は格段に増加します。女の子の場合は9歳ごろから乳房が膨らみ始め、身長増加が加速して3年間でおよそ20cm身長が伸び、初経とともに身長増加は止まっていきます。男の子の場合は約2年遅れで思春期に入り、3年間で平均25cm身長が伸び、成人身長になっていきます。

 このような急激な身長増加は性腺ホルモンが増えてくるために起きます。もし性腺の発達に問題があるとこの急激な身長増加は起きないので、他の子どもとの身長の差は急激に広がっていきます。男の子の場合には奥手になりやすく、たいていは単に性成熟が遅れているだけで、待っておけば身長は伸びてくる子が多いのですが、女の子の場合は早生の傾向のことが多く、女の子でこのようなことが起きた場合には何らかの病気が隠れていることも考えないといけません。

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 今回説明したことは、代表的な状態だけです。成長曲線を描いて子どもの成長を見守ることの大切さを理解いただければ幸いです。次回は成長障害の治療と家庭で気をつけることについて説明します

◇岡山済生会総合病院(086―252―2211)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2016年04月18日 更新)

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