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(1)体外受精の成績と年齢 倉敷成人病センター 体外受精センター長 本山洋明

本山洋明体外受精センター長

 「かなり努力しているけど妊娠できないな」と感じたら不妊症の検査を始めましょう。世界中の学会では挙児努力期間1年で不妊症としていますが、1年待つ必要はありません。妊娠は精子と卵子が卵管内で出会って受精することから始まり、受精から4日目に子宮に運ばれて5日目に内膜に着床し、子宮の中で発育し誕生を待ちます。

 不妊検査は、この進行が正常かどうかを調べます。卵管通過性のレントゲン検査、精液検査、排卵や着床に関係するホルモン検査、超音波で卵胞の発育、排卵の有無、子宮内膜の状態の確認などです。しかし、検査で分かるのはこの程度に限られます。精子と卵子が卵管に入っているのか、受精できたのか、受精卵が子宮に運ばれたのか、着床できたのか、など体内での出来事は知ることができません。

 卵管や精子の検査で高度の異常があり、体内での受精が不可能ならば、すぐに体外受精や顕微授精へ進みます。それほど高度の異常ではない場合や不妊の原因が不明な場合には、排卵日を推定して性交するタイミング法から始めます。タイミング法で妊娠できた人の70%は6周期以内の妊娠です。

 半年経(た)っても妊娠しなければ、次に人工授精(AIH)を行います。これは排卵日に精子を培養液で洗浄して子宮に入れる方法で、簡単に行えます。卵管に到達する精子が不足して受精できない場合に有効です。しかし、卵子が卵管に入ってなければ無意味です。人工授精で妊娠できた人の80%が6回目までに含まれますので、このあたりから体外受精に進むかどうかを決めます。当院で2011―15年の5年間に初回の採卵を受けた795人の不妊原因の割合は原因不明が最も多く54%、卵管の異常20%、精子の不足17%、子宮内膜症9%などでした。

 体外受精は、卵子と精子が必ず出合い受精し子宮に入ることができるので強力な不妊治療法といえます。採卵による不妊治療法である体外受精、顕微授精、凍結胚移植はまとめて生殖補助医療(ART)と呼ばれています。体外受精は1978年にイギリスで、凍結胚移植は83年にオーストラリアで、顕微授精は92年にベルギーで、それぞれ初めて成功しました。

 その後、ARTの技術は進歩して妊娠率が向上し、現在では普通の不妊治療法になりつつあります。2013年にARTによって全国で約4万人の子どもが誕生し、同年の出生児数約100万人に対して25人に1人の割合になっています。1983年の第1例目から2015年末までで日本でARTにより生まれた子どもの累計は約40万人と推定されます。

 日本女性の結婚年齢の上昇は不妊治療の開始を高齢にしています。当院での初回採卵時の平均年齢は20年間で32・9歳から36・4歳へと、3・5歳加齢しています。卵子の加齢は挙児力の低下に直結します。11~15年に1889回採卵し、2749回受精胚を子宮に戻し、583回出産できました。これを1回の採卵でどのくらい出産できたか、2歳ごとの年齢別にグラフに示します。29歳まででは108回の採卵に対して85回出産でき、79%の出産率ですが、年齢が増すごとに低下していき、42歳以上では採卵回数は398回で最も多いのですが、出産は18回で4%になってしまいます。

 この加齢に伴う出産率の低下は、日本全国で同じ結果が報告されています。子どもを望む人は、年齢が大きな障壁になることを知る必要があります。

◇ 倉敷成人病センター(086―422―2111)

 もとやま・ひろあき 広島大付属福山高、岡山大医学部卒。岡山大医学部付属病院、高知県立中央病院、岡山赤十字病院など経て1981年から現職。2015年末までにARTにより2082人が分娩。日本産科婦人科学会専門医。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2016年04月18日 更新)

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